本記事は、電子情報通信学会発行の機関誌『電子情報通信学会誌』Vol.99 No.4に掲載されたものの抜粋です。全文を閲覧するには電子情報通信学会の会員登録が必要です。会員登録に関して詳しくはこちらから(電子情報通信学会の「入会のページ」へのリンク)。全文を閲覧するにはこちらから(電子情報通信学会のホームページ内、当該記事へのリンク)。『電子情報通信学会誌』の最新号はこちら(最新号目次へのリンク)。電子情報通信学会の検索システムはこちら(「I-Scover」へのリンク)。

「ファブラボ」とは何か

 今思えば、2010 年に筆者らが日本で初めて「ファブラボ」の準備を始めた当時、この言葉、そしてコンセプトを知る人はまだとても少なかった。しかし6年が過ぎた今、ファブラボは筆者が知る限り日本各地に16 か所(準備中も合わせれば30か所、世界には約700 か所、またファブラボ以外の「ファブ施設」まで概念を広げれば、国内にも100 か所以上が存在する。その地図は文献(1)に公開。)まで草の根で輪が広がり、その活動は政府の報告書にも頻繁に取り上げられるようになった(2)~(4)。2015 年の春、筆者が大学1 年生の授業で「ファブラボを知っていますか?」と質問を投げ掛けてみたところ、およそ半数の学生が手を挙げていた。書籍・雑誌・メディアでの紹介も進み、国際会議・国内会議も開催し、その様々な可能性を議論し実践してきたことが、ある程度実を結んでいるのだろうと考えている(5)、(6)

 しかし、改めて、そして何度でも、繰り返し問うてみたい。「ファブラボ」とは何だろうか? これは、この原稿を読まれているあなたにも、そして実は筆者自身にも、依然として開かれた問いなのだ。

 筆者ら有志メンバーで運営している「ファブラボ・ジャパン・ネットワーク」の公式ホームページ上には、次のような説明を掲載している。「ファブラボは、デジタルからアナログまでの多様な工作機械を備えた、実験的な市民工房のネットワークです。個人による自由なものづくりの可能性を拡げ、『自分たちの使うものを、使う人自身がつくる文化』を醸成することを目指しています」。

 これは2012年の時点でメンバーで話し合った末の文言だった。ここで言う、アナログな工作ツールとは、のこぎりややすり、はさみなどであり、そしてディジタルな工作機械とは、近年になって急速に認知が進んだ「3Dプリンタ」や「レーザカッター」「CNCルータ」「ディジタル刺しゅうミシン」などディジタルデータから物質を加工する技術群を指す。3Dプリンタを含むディジタル工作機械は、過去から存在していたもので、特に最近登場したというわけではないが、一昔前までは、ほとんどが数百万円か数千万円オーダであり、企業だけが試作目的で所有している状況であった。しかし、特許の期間満了等幾つかの要因があって、2000年代にこれらのオープンソース化・小形化・低価格化が一気に進んだ。現在では10万円を切る価格で家電量販店でも3Dプリンタが購入できる時代になり、「ディジタルデータからものを作る」機械に、市民が気軽にアクセスできる状況になってきた。