本記事は、電子情報通信学会発行の機関誌『電子情報通信学会誌』Vol.99 No.12に掲載されたものの抜粋です。全文を閲覧するには電子情報通信学会の会員登録が必要です。会員登録に関して詳しくはこちらから(電子情報通信学会の「入会のページ」へのリンク)。全文を閲覧するにはこちらから(電子情報通信学会のホームページ内、当該記事へのリンク)。『電子情報通信学会誌』の最新号はこちら(最新号目次へのリンク)。電子情報通信学会の検索システムはこちら(「I-Scover」へのリンク)。

1.はじめに

 近年スマートフォンやタブレット端末などが広く普及したため、いつでもどこでもメールや情報検索などができるようになった。これらの背景には、ユーザからの要求を即座に処理可能とする大規模計算機であるクラウドコンピュータや、これまでに蓄積されたばく大な情報であるビッグデータの存在が大きく関わっている。クラウドを利用することで、複雑な処理の委託やビッグデータをクラウド上で一元管理することでコストを下げることができることが期待されている。更に、クラウド上で収集した膨大なデータから有益な情報を導き出すことが可能となり、便利な情報社会へと進化することが期待されている。特に最近では、分野の異なる企業が複数協業し、顧客需要を喚起する動きが加速していることから、複数企業間の情報分析を行うための新しいビジネスツールとしてのクラウド活用も期待されている。

1.1 情報利活用とプライバシー保護

 しかし一方で、クラウドを活用したビジネスに対する懸念点は依然として多い。例えば、企業利用においては、クラウド上のデータセキュリティが確保されるのかということが常に問題視される。顧客情報の流出事故等は企業の存亡を揺るがす大きな問題へと発展する恐れがあるため、企業における情報管理はより慎重かつ厳重にならざるを得ない。このように、データをクラウド上に預ける際には安全性対策が必須であり、特にデータの暗号化は有用な対策の一つである。データを暗号化することで、鍵を適切に管理さえすれば、データの秘匿性を保つことができるため、暗号化はデータ保護の観点からは非常に有効である。しかしその反面、クラウドに集められた情報の価値を最大限利活用しようとした場合、統計分析や検索時には通常元データが必要となるため暗号化されたデータのまま処理することは難しい。同一企業内のデータであれば、分析に必要なデータを企業内に引き戻し組織内で復号することで元データに対する処理が可能となるが、複数の企業にまたがるデータ分析の場合は、このような手法を採ることはできない。複数企業が持つデータをクラウド上で共有して分析処理する際に考えられる素朴な方法としては、クラウド内で暗号文を復号し、平文の状態に戻してデータ処理をするしかない。しかし、この場合は鍵管理や復号データの利用時のクラウドへのアクセス制御等、セキュリティを高めるためのシステム管理上の対策が必要になり、コスト面で不利となることから、決して有用な方法ではない。