「保留にはしない」が経営の原則に

 発売時期が今だったことについては、技術的な成熟度や健康への関心の高まりといった背景に加え、シャープがEMS(電子機器生産受託サービス)世界最大手の鴻海精密工業の傘下に入ったことが大きかったようだ。シャープは「メディカル・ヘルスケア分野の製品開発をかなり以前から手掛けてきた」(シャープライフサイエンスの早野氏)実績があり、AGEsセンサも5年以上前から開発を進めてきた(関連記事2同3同4)。これを今発売した背景には、鴻海ならではの意思決定の速さと、ヘルスケア・メディカル分野を強化するというグループとしての戦略がある。

非侵襲の生体センシングに注力する(資料:シャープライフサイエンス)
非侵襲の生体センシングに注力する(資料:シャープライフサイエンス)
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 鴻海とシャープは2017年3月、シャープのヘルスケア・メディカル関連事業の一部を、両社が共同出資する持株会社Sharp Healthcare and Medical Company KY(SHMKY社)の傘下に置く体制に改めた(関連記事5)。SHMKY社には鴻海が51.2%、シャープが48.8%を出資。シャープライフサイエンスはSHMKY社傘下の事業会社3社のうちの一つで、鴻海出身の林家慶(リン・カケイ)氏が代表取締役を務める。たんぱく質分析装置や微生物センサーを主力とし、AGEsセンサは鴻海との合弁後第1弾となる新製品である。

 こうした新体制を敷いたのは、シャープがヘルスケア・メディカル分野で領域で培ってきた資産に「鴻海が価値を認め、事業を拡大しようと決断したから。独立した事業とすることで開発のスピードが高まり、グローバル展開も迅速化できる」(シャープライフサイエンスの早野氏)。シャープライフサイエンス 副社長の北村和也氏は、鴻海の経営参加により「マネジメントの部分でかなりスピードアップできている。“保留”という判断を下すことは一切なくなった」と話す。

 今回はシャープが開発した製品を同社の協力工場で生産する形だが、今後はヘルスケア・メディカル分野の製品開発や生産、販売などで鴻海とのシナジーを生かす。「鴻海の海外ネットワーク、特にアジア地域のネットワークを製品の海外展開に生かしたい」(北村氏)。鴻海への生産委託も検討する。