「技術的に非常に難しい」

 人体を構成するたんぱく質と糖が結びついて糖化が進むと、たんぱく質は本来の働きができなくなる。血管や肌、骨などの組織が弾力を失ってもろくなったりするほか、糖尿病や動脈硬化、高血圧、認知症などの疾患との関連も指摘されている。AGEsは加齢に伴って体内に蓄積されるが、健康的な生活を送っている人ではその蓄積量はそれほど多くないという。ところが、不適切な食生活や生活習慣、運動不足などの要因があると、体内での蓄積量が急激に増える。生活習慣のバロメーターとなる指標であり、比較的短期間の生活改善で数値が良くなるという側面もある。

得意の技術をAGEsの蛍光検出に(資料:シャープライフサイエンス)
得意の技術をAGEsの蛍光検出に(資料:シャープライフサイエンス)
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 AGEsセンサではこのAGEsの蓄積レベルを、左手中指の先を測定部に挿入するだけで、血液を採取することなく30~60秒で測れる。指先に近紫外光を照射し、一部のAGEsが発する光(自家蛍光)を受光素子で検出してAGEsの蓄積レベルを測る仕組みだ。シャープはかねて、疾患の一歩手前の「未病の領域で何か役に立つことができないか」(シャープライフサイエンス マーケティング統轄部 営業部 部長の早野国利氏)と考えてきたといい、その一つが未病状態を非侵襲で見える化するセンシング技術だった。AGEsセンサはその開発努力が結実した製品である。

 AGEsを非侵襲で測れるセンサーはこれまで、海外企業が研究開発向けの製品を発売した実績がある程度。シャープにとってはこの点が大きな魅力だった。「非侵襲でAGEsを測れるなら、血糖値も測れるだろうという声も受け取った。だが血糖値については、既に世の中に存在するセンサーで間に合うと考えた」とシャープライフサイエンスの山中氏は話す。製品のオリジナリティーを重視し、あえてAGEsという新たな指標に挑んだ。

 AGEsの蓄積度を測ることは技術的には非常に難しく、この点もむしろシャープには魅力と映ったようだ。心拍や酸素飽和度を光学的に測る場合には、入射光と同じ色で同程度の強さの反射光や透過光を検出する。ところがAGEsでは、微弱でしかも入射光とは色が異なる光を検出しなければならない。従来比数百倍の高感度化が必要なため、シャープはここに独自の光学設計技術や信号検出回路技術を生かした。もともとは光ディスク用ピックアップ部品やカメラモジュールで培った技術だ。