地方自治体と地元医師会、医療機関、企業がタッグを組み、ICT(情報通信技術)を活用した新しい医療のカタチを探る試みが、福岡市を舞台に始まった。オンラインでの問診や診察、モニタリングを組み合わせ、診療の質を高めることを目指す。2018年度診療報酬改定をにらみ、オンライン診療(遠隔診療、ネット診療)の有効性や安全性に関するエビデンスをつくる取り組みでもある。

来院した患者は、受付で渡されるiPadを使って問診に答えていく。写真はデモ用画面(写真:諸石信)
来院した患者は、受付で渡されるiPadを使って問診に答えていく。写真はデモ用画面(写真:諸石信)

 福岡市東区にある人工島、アイランドシティ。その一角にある内科診療所、まえだクリニックでは最近、来院した患者が受付でiPadを受け取る光景がすっかり定着した。

 受け取った患者は待合室で、iPadの画面に映し出された問診項目にタッチ入力で答えていく(右写真)。問診項目は患者の疾患に合わせて作られており、例えば喘息(ぜんそく)患者なら「朝早く目が覚めますか?」「息切れの頻度はどのくらいですか?」といった趣旨の質問が用意されている。患者は、日々感じている症状を自己評価して回答する。答えるたびに繰り出される質問にすべて答え終わると、その結果が診察室にいる医師の端末に無線で送信される仕組みだ。

 医師は患者を診察室に呼び込む前に、問診の結果を確認する。結果は数値化され、そのスコアの時系列の推移がグラフで表示されているので、患者の最近の調子が一目で分かる。名前を呼ばれ、診察室に入ってきた患者に、医師は「薬を変えてから調子が良さそうですね」と声を掛けた――。

 まえだクリニックでのこうした光景は、この春に福岡市で始まったオンライン診療に関する実証事業の一コマ。福岡市と福岡市医師会、医療法人社団鉄祐会、インテグリティ・ヘルスケア(東京都中央区)が2017年4月に始めた「ICTを活用した『かかりつけ医』機能強化事業」の一環である(関連記事)

ICTを活用した「かかりつけ医」機能強化事業に関する記者会見の様子。左から福岡市医師会 常任理事の松本朗氏、福岡市 保健福祉局 政策推進部長の中村卓也氏、医療法人社団鉄祐会 理事長でインテグリティ・ヘルスケア 代表取締役会長の武藤真祐氏
ICTを活用した「かかりつけ医」機能強化事業に関する記者会見の様子。左から福岡市医師会 常任理事の松本朗氏、福岡市 保健福祉局 政策推進部長の中村卓也氏、医療法人社団鉄祐会 理事長でインテグリティ・ヘルスケア 代表取締役会長の武藤真祐氏