“参加型医療”を目指す

 この実証事業では、インテグリティ・ヘルスケアが開発した診療支援システム「YaDoc」を活用し、「オンラインモニタリング」「オンライン問診」「オンライン診察」の3つによって医師と患者をつなぐ。通常の対面診療にこれらを組み合わせることで、かかりつけ医による診療の質をどのように高められるかを検証する取り組みだ。

 「短い診察時間の中で、医師は患者の状態を正確に聞き取ることができていない現状がある。同時に、患者もここ最近の症状を正確に医師に伝えることが難しいという実態がある。ICTを活用することでこの課題を解消し、予防・治療に向き合う関係を構築できる」。鉄祐会理事長でインテグリティ・ヘルスケア代表取締役会長の武藤真祐氏は、今回の取り組みの狙いをこう話す。オンラインで医師と患者をつなぐことで、両者がより密に連携できるようにし、患者自らが予防や治療に積極的にかかわる参加型の医療を実現する狙いがある。

オンライン問診の結果を医師と患者がともに見ながら診察を行うことで、参加型の医療につなげる(写真:諸石信)
オンライン問診の結果を医師と患者がともに見ながら診察を行うことで、参加型の医療につなげる(写真:諸石信)

 実証には既に福岡市内の20弱の医療機関が参加。診療所が中心だが、200床近くの病床数を備える病院も参加している。まえだクリニックで行われているようなオンライン問診の仕組みが、各施設の外来診療で稼働中だ。

 さらに2017年7月後半~8月には、オンラインでの診察やモニタリングの仕組みも、いくつかの医療機関で動き出す。「2018年度診療報酬改定の動きを意識しつつ、できるだけ短期間で今回の取り組みのエビデンスを出していきたい」と武藤氏が語るように、オンライン診療(遠隔診療)が次期診療報酬改定で評価される動きが具体化してきた(関連記事)ことを受け、そこに向けたエビデンスをつくることが今回の実証の大きな目的である。

 オンライン診療に関する実証は各所で始まっているが、福岡市の取り組みには市医師会が全面的に協力しているという強みがある。2016年11月に発足した実証事業のワーキンググループには、福岡市と鉄祐会に加え、福岡市医師会が参加。「新たな診療の形態を探る試み」と同市医師会 常任理事の松本朗氏が語るように、地元医師会も大きな期待を寄せている。

 ワーキンググループには厚生労働省の地方支分部局の一つ、九州厚生局もオブザーバーとして参加。実証事業を踏まえた議論を、中央行政に伝えていく仕組みが既に整っている。「自治体に医師会、行政までを巻き込み、法制度の問題を含め適切な手続きを踏んだうえで診療報酬改定につなげていく」(福岡市 保健福祉局 政策推進部長の中村卓也氏)という出口を見据えた取り組みなのだ。