「髪の毛1本分ほどの毛細血管まで鮮明に見ることができる」――。そんな高精細な映像を映し出せる「8K」(画素数横7680×縦4320ピクセル)技術を用いた大腸癌の腹腔鏡手術の臨床試験が、今まさに国立がん研究センターで行われている(関連記事)。高解像度の映像を用いた内視鏡手術の利点と、実用化までの課題を探った。

 2018年3月某日。盲腸癌の40歳代女性が、8Kスーパーハイビジョン技術を用いた腹腔鏡システムによる回盲部切除術を受けた。8K腹腔鏡システムを使った、世界初となる人を対象にした臨床試験の幕開けである。

 使用する8K腹腔鏡システムは、国立がん研究センターがNHKエンジニアリングシステム、オリンパス、NTTデータ経営研究所と共同開発したもの。現在主に使われている2Kフルハイビジョン(横1920×縦1080ピクセル)の腹腔鏡に比べて、16倍の高精細映像を撮影することができる。開発に当たり、日本医療研究開発機構(AMED)の「8K等高精細映像データ利活用研究事業」の支援を受けた。

写真1 全体像と拡大像の2枚のモニターを設置した手術室内 全体像を8Kモニター(奥)、拡大像を4Kモニター(手前)で同時に見ることができる。(撮影:秋元忍、写真2も)
写真1 全体像と拡大像の2枚のモニターを設置した手術室内 全体像を8Kモニター(奥)、拡大像を4Kモニター(手前)で同時に見ることができる。(撮影:秋元忍、写真2も)
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 このシステムの最大の利点は、術野の全体像と患部の拡大像を同時に見ることができる点にある。通常の腹腔鏡手術では、解像度が低いため、術野を拡大する際に腹腔鏡を患部に近付ける必要があり、拡大像と全体像を同時に確認することができなかった。これに対し、8K腹腔鏡システムでは、高精細な映像が得られるため、患部を拡大する際は腹腔鏡を動かすことなく、全体像から一部を切り出して拡大すればよい。手術室には、全体像を映す8Kモニターと、拡大像を映し出す4Kモニターが設置されている(写真1)。執刀医は拡大像を見ながらリンパ節や血管を剥離し、時折全体像を見て切り進める位置を把握することができる。

 ポートから挿入した腹腔鏡は、患部から離れた位置に固定する。通常の腹腔鏡手術では、患部に近付けた腹腔鏡と手術器具がぶつかったり、拡大時の映像がぶれたりすることがあるが、8K腹腔鏡システムではそうした問題が解消される。また、広い操作スペースを確保できるため、術中臓器損傷の減少につながることも期待できる。