実は、この座談会会場に来る途中、南青山(東京都)の交差点でトラブルに遭遇しました。男性が交差点の真ん中で倒れたのです。私は男性に付き添い、近くにいた他の女性が119番に電話してくれました。

日本介護福祉士会 会長の石本淳也氏(写真:加藤康、以下同)
日本介護福祉士会 会長の石本淳也氏(写真:加藤康、以下同)
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 その女性は電話で一生懸命に話をしてくれていましたが、倒れた男性の状況をうまく伝えられず少しとまどっていたようでした。このとき思ったのは、「倒れた人の状況を、スマホなどで医師や救急センターへリアルタイムに送ることができればどれだけ便利か」ということです。

 今回は交差点の真ん中で男性が倒れたため、交通の妨げにもなっていました。しかし、頭を打っている可能性があったため、私としてもむやみに動かすわけにはいきませんでした。このような場合、専門家にリアルタイムで診てもらって状態を判断してもらえれば、スムーズに対応することが可能となるでしょう。

 また、今回電話をしてくれた女性は、その場所を相手に伝えることにも苦労している様子でした。これも、スマホのGPSなどを活用すれば、簡単に知らせることができるでしょう。技術をうまく取り入れることで、現場が楽になるケースは多々あるとあらためて感じました。

 介護福祉士の立場から見ると、特に特別養護老人ホームやグループホームなど、医師のいない介護施設ではその利便性を感じます。このような施設では、入居者の状態が急変しても介護職員は救急車を呼ぶべきかの判断ができないため、医師に電話をすることになります。このようなとき、簡単かつ的確に入居者の状態を知らることができる技術があれば、介護職員の負担は軽減できると思います。

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 ただし、介護では全てをデジタルに頼り切るのではなく、アナログとして残すべき部分は必ずあるでしょう。「介護=暮らしを支える」という視点で捉えればデジタルだけで解決できるものではないため、体温を感じるべき点を尊重しながら、患者や利用者の目線で技術を導入すべきだと考えます。その結果として、技術を使う側だけでなく使われる側のメリットも見えてくると、我々としても理解しやすいですし、利用者にも説明しやすいと感じています。

 一方で、介護業界は従事者の年齢層が高いという現状にあるため、世代的な側面からテクノロジーに対するアレルギーはあります。しかし、ITやIoTの流れは確実に来ていますし、現在でもパソコンは使えないと大変です。そういった点も踏まえれば、我々としても「時間をかけて受け入れていく」必要はあります。

 もちろん、ITなどの技術になじみのある若い世代が介護業界に増えれば、そういった流れも早く根付くことでしょう。しかし、残念なことに現状では若い世代が減る一方です。これも悩ましい問題ではあるのですが、すでに利用者側である高齢者の価値感が変わりつつあるので、従事者側のテクノロジーに対する感覚も必然的に変わっていくと見ています。