在宅でのデータを含めた健康データを誰がどう使っていくのかは重要な論点です。医療機関が持っている医療情報と、生活空間で出回る生活情報を合わせることで、治療や保健指導の質が上がるのではないかと考えるからです。

経済産業省 商務情報政策局 ヘルスケア産業課 課長補佐の富原早夏氏(写真:加藤康、以下同)
経済産業省 商務情報政策局 ヘルスケア産業課 課長補佐の富原早夏氏(写真:加藤康、以下同)
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 その効果を発揮するものとして一番に浮かぶのは生活習慣病です。経済産業省では昨年から、健康経営に取り組む企業や保険者、医療機関などの協力を得て、糖尿病軽症者や予備軍の患者の健康情報・生活情報を、本人に加えて医師や保健師、管理栄養士と共有するというプロジェクトを進めています。患者の状況が好転していれば応援し、状況が下降していれば別の視点から行動変容を促すものです。8コンソーシアムで1000人が参加しています。

 この取り組みを通じて情報を見える化することで、本人も伴走されている先生方にも変化が見られ、行動変容が見られました。今年からこのモデルについて3年間に渡ってより大規模な医学研究として実証していきますが、可能性を感じる結果が得られました。

 一方で、個人が情報提供を行うと、医師がすべての情報を見ることを期待されてしまうという声もありました。それによって、より個別化した対応が求められると医師の負担が増えます。

 情報を共有することは、より良い健康指導や治療を行える可能性がありますが、同時にそれによる患者や医療職への負担についても考えなくてはいけません。このため、私たちも医療職や有識者の声を踏まえて、特に必要性が高いデータ項目に絞って実証を行いました。健康情報と合わせて患者の行動変容の度合いを青信号・黄色信号・赤信号のようにわかりやすく電子カルテに表示されるようにするといいと言ってくれた医師もいました。また、例えば、米国では、担当医ではなく病院のデータセンターで看護師などが慢性疾患患者の健康情報を認識し、特別な対応が必要な場合に医師へ報告がいく仕組みをとっているケースがあります。

 技術の発展により情報の収集コストは劇的に下がっていきますが、ただ情報を集めるのではなく、何のために情報を使うかという視点こそが重要であると考えます。どういった価値を実現したいか、そのために誰がどのような情報を必要としているか、そして日々の業務フローに負担感なくなじんでいけるかということが、健康・医療・介護の分野でも「なくてはならない」ITシステムを実現するに当たって必要な視点と考えます。

法令が足かせになってはいけない

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 今回の座談会では、個人情報保護法関連の法令(例えば、3省4ガイドラインなど)がわかりにくいという話が出ました(関連記事)。クラウドなど、この領域の技術はどんどん進化しているので、法令のためにイノベーションが遅れるようなことはあってはいけないと思っています。

 経済産業省には産業競争力強化法に基づく「グレーゾーン解消制度」というのがありますが、特にヘルスケアの領域に関しての確認は多く寄せられます。法令を怖がりすぎて、本来はやっていいことも、ここまでやってはいけないと思われていることもあります。このような現状を踏まえて、個別の問い合わせに答えるだけでなく、それらをまとめたものを公開しています。法令をおもんばかった萎縮がイノベーションのハードルにならないようにしていきたいと思っています(談)。