2017年4月、国産の新ロケットエンジン「LE-9」の燃焼試験が、宇宙航空研究開発機構(JAXA)・種子島宇宙センターのテストスタンドで始まった。LE-9は2014年に29年ぶりの開発が始まった国産次世代主力ロケット「H3」の第1段用の新エンジンである。試験にはLE-9エンジン4基を投入し、来年度第1四半期までに1シリーズあたり11~17回、合計5シリーズのエンジン燃焼試験を実施する。

 H3は単なる新型ロケットではない。2001年初打ち上げのH-IIAロケットの開発以降停滞し、世界の潮流にすっかり遅れてしまった日本のロケット技術と人材を蘇らせ、世界の一線に再び挑戦できる状況まで引き戻す重要な役割を担う。その成功を左右する鍵の一つが今回、燃焼試験が始まったLE-9である。

 日本はH3とLE-9の開発で何を成し遂げようとしているのか。海外のライバル勢と国際市場の現状を踏まえつつ、H3やLE-9のコンセプトや設計から透ける狙いと課題を4回に分けて解説していくことにする。

 「今日は宇宙にとって宇宙産業にとって素晴らしい日になった」――。
 珍しくライブビデオに登場したイーロン・マスクCEO(最高経営責任者)は、 誇らしげに語った。

 マスクCEO率いる米スペースXは2017年3月30日、「ファルコン9」ロケットで、 再利用第1段による初の衛星打ち上げを成功させた。

米スペースX社のファルコン9ロケット(画像:スペースX社)。第1段は着陸脚を装備し、ロケットエンジンの逆噴射で着陸、再利用が可能。2017年3月30日には再利用第1段による初の衛星打ち上げを成功させた。
米スペースX社のファルコン9ロケット(画像:スペースX社)。第1段は着陸脚を装備し、ロケットエンジンの逆噴射で着陸、再利用が可能。2017年3月30日には再利用第1段による初の衛星打ち上げを成功させた。
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 スペースXは電気自動車の米テスラの創業者であるマスクCEOが2002年に起業したロケットベンチャー。国産の主力ロケット「H-IIA」と同規模の「ファルコン9」ロケットの運用を2011年から開始。低価格を武器にあっという間に商業打ち上げ市場への参入に成功した。それどころか、ファルコン9をどんどん改良して、打ち上げ能力はH-IIAの2倍以上に大型化している。

 さらに第1段に着陸脚を装備し、ロケットの逆噴射で地上に再着陸させ、回収して再利用して打ち上げコストを引き下げる技術開発に乗り出し、ほぼ成功させるところまで来ていた。そして今回、2016年4月に打ち上げた機体から回収した第1段ロケットを再利用し、衛星の打ち上げに成功した。

 ファルコン9の第1段再利用によるコストダウンがどの程度になるかはまだ分からないが、10%程度のコストダウンでも、商業打ち上げ市場のシェアの変動につながるだろう。