宇宙航空研究開発機構(JAXA)・種子島宇宙センターで2017年4月から燃焼試験を開始した国産の新ロケットエンジン「LE-9」。H-IIロケット以来、29年ぶりの完全新規開発となる新国産大型ロケット「H3」の第1段エンジンで、最大の開発要素となる。

種子島宇宙センターの試験場に据えられた国産の新ロケットエンジン「LE-9」
種子島宇宙センターの試験場に据えられた国産の新ロケットエンジン「LE-9」
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 前回説明したように、LE-9の技術的な特徴はエンジンサイクルに「エキスパンダー・ブリード・サイクル」を採用した点にある。簡素で低コスト、しかも高い信頼性を兼ね備えるとされる方式だが、従来は中小型ロケットエンジン向けとされており、LE-9のような規模の大型エンジンに採用された例がない。無事完成すれば日本の独自技術になるのは確かだ。

 「簡単・安い・壊れない」を武器に世界の商業ロケット打ち上げ市場に挑もうとする日本。はたして、その方向性は日本が国際的な市場に食い込むにあたり、思惑通りに有力な武器になるのだろうか?

 「打ち上げコストのさらなる低減」が、現在の商用宇宙ロケットで重要な命題であるのは間違いない。しかし、その命題を技術的課題に落とし込み、さらに解決策を見い出す筋道は一つではない。各国がそれぞれ異なる方向性で次世代のロケット、ロケットエンジンを開発しているのはそのためだ。今回は商業打ち上げ市場を狙う各国のプレーヤーの開発の方向性をまずは概観してみよう。

衛星2機打ち上げ運用で手堅いビジネス目指す欧州

 欧州(EU)は、国際組織・欧州宇宙機関(ESA)を組み、宇宙開発を推進している。完成したロケットを使い、アリアンスペースという会社を通じて商業市場で打ち上げサービスを実施している。アリアンスペースは長年市場シェア50%以上を保持している、商業打ち上げ市場のトップランナーだ。

 欧州が開発中の次世代ロケット「アリアン6」が最大の目標は打ち上げコスト削減だ、現行の「アリアン5」との比較で半減を目指している。このあたりはH-IIAに対してコスト半減を目指すH3と同じだ。