ポートフォリオの使用例を“詳しく”解説する目的

 前回予告した通り、今回はポートフォリオの使い方の一例を詳しく解説します。ここでいう“詳しく”とは、手順を詳細化することだけでなく、場面や登場人物を具体的に記述することを示します。具体化することで汎用的な解説ではなく一例になってしまいますが、新規事業開発分野においてポートフォリオはまだ十分に活用されているとはいい難い状況のため、実際に運用した場合のイメージを持っていただくことを優先して考えました。

 ERP(Enterprise Resource Planning)やPLM(Product Life cycle Management)などのITツールの活用が当たり前になっている設計、調達、生産、販売、会計などの業務と比較すると、新規事業開発業務ではあまりITツールが活用されていません。新規事業開発業務においても、ポートフォリオを使う場面ではITツールが効果を発揮しますので、ツールの観点にも触れたいと思います。

モデルとする研究所の特徴

 具体的な例として取り上げるのは、新規事業開発をミッションとして持つ研究所です。この研究所の特徴は以下の通りです。

・4つの事業を有する企業グループに属している

・ある技術領域を担う研究所である(グループには別の技術領域を担う研究所がある)

・機能別子会社である

・新規事業開発だけでなく、既存事業拡大のミッションも持つ

・所属する研究員は100名程度である

・推進している研究テーマは新規事業開発、既存事業拡大の両方のカテゴリーを合わせて100程度である

・1研究テーマ当たりの担当人数は1~数人である

・1人当たりの担当研究テーマ数は1~数テーマであり、複数の研究テーマを兼務しているメンバーもいる

・研究所は大きく3つの技術領域別研究室とスタッフ部門である研究企画管理室を有している

・研究室ごとに売上、営業利益の目標を持っている

・四半期ごとに売上、営業利益の目標に対する進捗管理がある

・四半期ごとに研究テーマを見直している

・各研究室内では、ある研究テーマにアサインできるスキルを持つメンバーが複数存在することが多い(ある研究テーマを特定の人しか担当できない、ということが少ない)

・ポートフォリオ管理の取りまとめは研究企画管理室が担当している

・ポートフォリオ管理には汎用的なITツール(アプリケーションパッケージ)を使用している

ポートフォリオ使用の大まかな流れ

 上記の通り、この研究所は四半期ごとに研究テーマを見直しています。その中心となるイベントが研究テーマ選定会議です。ポートフォリオ使用の大まかな流れはシンプルで、会議前準備と会議による決定です。

 まず会議前に、研究テーマ群のバランスをチェックするための視点と、視点ごとの水準定義、既存研究テーマと新規研究テーマ候補の情報を準備します。次にポートフォリオ会議にて、研究開発方針の確認、最適な研究テーマ群のバランスの決定、研究テーマの選定を行います。