今回は、市場調査に関するポイントを説明したいと思います。市場調査と一言でいっても、さまざまなものがあります。企業ドメインを決定するためのものもあれば、事業展開する上での対象市場を決定するためのもの、ターゲット顧客を決定するためのものなど、目的に応じて市場調査は実施のポイントが変わってきます。

図1●市場調査の階層
図1●市場調査の階層
[画像のクリックで拡大表示]

 ここでは、新規事業開発プロセスの初期段階「環境分析」で行う「市場動向調査」(市場規模動向調査)についてお伝えします。新規事業開発プロセスの全体像は図2の通りです。プロセスの詳細な説明は本連載の第6回「検討プロセスを定義せずにプロジェクトを進めていないか? 技術起点と顧客起点を組み合わせてテーマを創出せよ!」をご覧ください。

図2●新規事業開発プロセスの全体像
図2●新規事業開発プロセスの全体像
[画像のクリックで拡大表示]

 この段階で行う市場調査の目的は、新規事業を展開する対象市場を決定することです。対象市場を決定するためには、候補となる市場の規模を調査する必要があります。市場規模とは、ある一定期間(1年間など)における、当該市場全体の製品やサービスの売上高のことを指します。これは当該市場において獲得できる売上の上限値であり、新規事業を展開する際の売上規模を規定するベースの数値となるため、対象市場を決定する上で非常に重要な指標となります。経営層が新規事業への投資を意思決定する際にも市場規模は最重要指標の1つとなり、新規事業開発メンバーが企画を提案する際は、その算定根拠の説明が求められることが一般的です。

 一方で、この段階に行う市場調査はどうしても不確実な概算予測値になってしまいます。市場の新規性が高いほど調査に必要な情報が存在せず、収集可能な情報から市場規模を予測せざるを得ません。そのため、この段階では「鉛筆をなめた」(明確な根拠がなく、数字を操作した)市場規模の算出が行われるケースが多々あります。

 当然、まだ存在しない市場の規模を算出する場合などは完全な推測となり、算出時点では正解というものはありません。しかし新規事業への投資を行う上では、どの程度の事業規模になりそうかを見極めなければならないため、鉛筆をなめた根拠がない算出結果ではなく、ロジックに基づいた根拠のある算出結果を提示し、その根拠がどれだけ確からしいかを吟味していくことが必要です。

 今回はこのように、新規事業開発の初期段階で限られた情報を基にして、概算の市場規模を論理的に算出していくための1つの方法として「フェルミ推定」を紹介します。また、一旦算出した概算の市場規模の精度を高めていくための、調査の検証水準管理に関するポイントも併せて説明します。