デザインで日本の未来を指し示す
戦後、亀倉は「デザインは明るい生活の歌でなければならない」と語り、企業デザインはもとより、国家的事業に関するデザインも手掛けていきました。例えば大阪万博のポスター、グッドデザイン賞のロゴマーク、NTT民営化のロゴマークなどです。中でも、特に有名なものが、オリンピック関連のデザインでしょう。
オリンピックのポスターから見てみましょう。これは四つの連続的な作品となります。エンブレム、スタートダッシュの瞬間、バタフライ、そして聖火ランナー。オリンピックというイベントの華やかさ、ダイナミズム、祭りのハレといったものをビジュアルで表現し、オリンピックの思想を一貫して示しています。
実は亀倉は、このスタートダッシュの瞬間のポスターでプロパガンダ(対外宣伝)グラフ紙『NIPPON』の表紙に影響を受けています。1936年のベルリンオリンピックのときに河野鷹思がつくったものです。この二つ、似ていると思いませんか? スタートの瞬間で、奥行きがなく平面的で。亀倉は、この『NIPPON』の表紙を見たときに、いつか自分もこんなものをつくろうと思っていたんですね。それから25年以上たってから、この五輪ポスターをつくりました。
もちろん、ただ真似したわけではありません。このポスターの中には3人の日本人がいます。
戦後、東京オリンピックの前には、「日本は世界と伍していいんだ」という世の中の空気はまだありませんでした。そうした雰囲気の中で構図の中に日本人を入れ、前に突き進む様子を描いている。
「日本人も世界の人々とともにスタートしていいんだ」という印象を与えます。バタフライのポスターも、日本がダイナミックに突き進んでいく様子を表現しています。恐らく、これが外国人だけのポスターだったら、共感は得られなかったでしょうね。