「トヨタ流人づくり 実践編 あなたの悩みに答えます」では、日本メーカーの管理者が抱える悩みに関して、トヨタ自動車流の解決方法を回答します。回答者は、同社で長年生産技術部門の管理者として多数のメンバーを導き、その後、全社を対象とする人材育成業務にも携わった経歴を持つ肌附安明氏。自身の経験はもちろん、優れた管理手腕を発揮した他の管理者の事例を盛り込みながら、トヨタ流のマネジメント方法を紹介します。
悩み
生産管理部の課長として30人ほどの部下を管理・指導する立場にあります。私の理想は、自律的に判断して動ける部下を育てることです。というのも、最近はマニュアルがそろっているためか、その通りにしか動けない部下が増えているように感じるからです。これでは突発的なトラブルや市場が急変した際などに対応できるかどうか心配です。何か良いアドバイスはありませんか。

編集部:仕事の効率を高める1つの手段として、マニュアルの充実を図る流れが日本企業にあります。マニュアルがあると時間を短縮できるだけでなく、アウトプットに対して一定水準の品質を保てるというメリットもあります。一方で、「マニュアル人間」と揶揄(やゆ)されるように、自律的に動けない社員になってしまうという課題が指摘されています。トヨタ自動車の管理者はどのように対応しているのでしょうか。

肌附氏— 部下の扱い方と日頃の管理について、トヨタ自動車の管理者の多くが大切にしている基本事項があります。それは、部下を1人の人間として尊重し、自ら判断して自律的に行動できるように仕向けることです。

 仕事に十分に習熟していない入社して数年の若手社員には、基本的な仕事やルーティンワークを中心に担当させます。ここではOJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)を通じて先輩社員から直接仕事の仕方を教えたり、マニュアルや標準作業書などを使ったりして仕事を覚えてもらいます。

 しかし、2~3年経ったら、「ああしなさい」「こうしなさい」と逐一上司が命じることはしません。代わりに、その部下を信頼して仕事を任せるのです。すると、部下は自分自身で考えて行動するようになる。上司が見ていてもいなくても、変わりなく一所懸命に仕事に当たります。こうして、責任感が強くなり、自己管理ができる自律した社員へと成長することを期待するのです。

 やはり、信頼して任せるというところがポイントです。最悪なのは、部下を「私物化」してしまう上司。部下は自分の思い通りになると勘違いし、細かいことまで全て指示を出して動かそうとする。こうすれば確かに、全て上司が考えた通りに動いて仕事が効率良く進むかもしれません。ところが、これでは部下は育ちません。「仕事とは上司から言われた通りに動くことだ」と思い込み、自ら考えて動くことはなく、上司から指示されたことしかしない部下になってしまう恐れがあるからです。

編集部:ひょっとすると優秀な上司であるほど、部下の仕事の全てを自分のコントロール下に置いた方が成果は上がる、と考えがちなのでしょうか。