「トヨタ流人づくり 実践編 あなたの悩みに答えます」では、日本メーカーの管理者や社員が抱える悩みに関して、トヨタ自動車流の解決方法を回答します。回答者は、同社で長年生産技術部門の管理者として多数のメンバーを導き、その後、全社を対象とする人材育成業務にも携わった経歴を持つ肌附安明氏。自身の経験はもちろん、優れた管理手腕を発揮した他の管理者の事例を盛り込みながら、トヨタ流のマネジメント方法を紹介します。
悩み
課長として部下を管理・指導しています。若手が多いからか性格が素直な部下が多く、その点では助かっています。しかし、課題や問題点について指摘した直後はよいのですが、しばらくすると手を抜いてしまうケースが目立つのです。改めて指摘すれば動くのですが、指摘しなければ自ら動くことはあまりありません。部下をもっと自ら積極的に動くようにするには、どうしたらよいでしょうか。

 何度注意しても掃除をしようとしない作業者に業を煮やした管理者は、一計を案じた上で思い切った行動に出ました。管理者として求められる本来の業務の合間を縫って、ピットの清掃を始めたのです。ピットの中に降りて、そこにたまったゴミをかき出し始めたのです。

 初めは、管理者の気まぐれなパフォーマンス程度だと作業者は軽く見ていました。しかし、その管理者は手を休める気配はなく、ゴミ1つなくなるまでピットの清掃を続けました。しかも、一度きりではありませんでした。翌月もまた1人でピットの清掃作業を始めたのです。

 作業者の1人が管理者に近寄って声を掛けると、管理者は「誰も掃除しないから自分がやってみた。この清掃作業を外注したら、結構な費用が掛かるんだぞ」と言いました。

 当然、生産現場の清掃はこの管理者の本来の仕事ではありません。自分たちよりも職位が上の人が、真っ黒になってピットの清掃をしている。しかも、自分たちが軽視していた清掃作業は、費用に換算すればかなり高いことを知りました。こうした管理者の言動から「こんなことではダメだ」と、作業者たちは深く反省したのです。

編集部:それまでに管理者は「ピットを清掃しないと危険だ」と繰り返し伝えたのですよね? 恐らく危険性を納得させるために、テルミット反応により発火・爆発が生じる可能性があるという理由も説明したのではないでしょうか。にもかかわらず、作業者たちは聞く耳を持たなかったのですか?