事の重大さを身体で分からせる
肌附氏─さらに効果的な方法もあります。後工程で発生した問題やトラブルの解決を、その原因となるいい加減な仕事をした部下に担当させることです。例えば、先の設計者の場合は、生産現場の作業者の代わりにこの設計者に組み立て作業をさせ、良品に仕上がるまでの全ての修繕・改良作業を実施させてみる。ある部下のミスが原因で後工程の機械を故障させてしまった場合は、現場でその部下に修理させる。また、ある部下のミスで後工程から激しいクレームを受けた場合は、そのクレーム対応をその部下にさせるのです。
目で見るだけではなく、自分自身で経験させることで事の重大さを、より一層、部下に理解させることができます。顧客に対して与えてしまった苦労や困難の大きさを自ら体感しつつ、顧客から厳しく怒られる。この経験は、上司から叱られる以上に心に響くものです。
編集部:上司の注意を無視して問題を繰り返す部下には、時には荒療治も必要というわけですね。肌附さんが経験した、トヨタ自動車における事例はありませんか。
肌附氏─私がトヨタ自動車の生産技術部で働いていた時に、部下ではなく、取引先に対して品質を改善させた事例があります。
当時、私はシリンダーヘッドを鋳造する金型を設計し、外部の金型メーカーに発注する仕事を担当していました。ある金型メーカーに新型車向けの金型を発注したところ、品質に関係するミスを含む金型を納品してきました。新型車向けの金型であることもあって、1回くらいのミスは仕方がないと諦めて、私はその金型メーカーに修正するように言いました。ところが、その金型メーカーは同じミスを3回も繰り返したのです。
私が何度注意してもミスを直すことはなく、金型メーカーの営業担当者が来て「すみません」と言うだけ。その営業担当者にしてみれば、「自分が造ったわけではないのに、なぜ私が謝りに行かなければならないのか」という気持ちだったのでしょう。
そこで私は、金型メーカーが3回目のミスをした時に、営業担当者に対して「生産現場で金型を造っている職長と作業者の2人で来て下さい」と言いました。そして、その2人を、トヨタ自動車の試作試験(トライ試験)を行っている現場に連れて行きました。