「トヨタ流人づくり 実践編 あなたの悩みに答えます」では、日本メーカーの管理者や社員が抱える悩みに関して、トヨタ自動車流の解決方法を回答します。回答者は、同社で長年生産技術部門の管理者として多数のメンバーを導き、その後、全社を対象とする人材育成業務にも携わった経歴を持つ肌附安明氏。自身の経験はもちろん、優れた管理手腕を発揮した他の管理者の事例を盛り込みながら、トヨタ流のマネジメント方法を紹介します。
悩み
設備メーカーの部長を務めています。管理職に就いて以来、部下を育成することが大きな仕事の1つとなりました。褒めたり、叱ったり、いろいろと試みているのですが、やはり難しい。自分ではきちんと指導したつもりでも、期待する水準の半分にも達していないことがほとんどです。そのため、今でも、いかに部下を指導したらよいかで頭を悩ませています。部下をうまく指導するコツがあれば教えて下さい。

やってみせて指導する

肌附氏─仕事の種類や内容によります。新技術を開発したり、新しいプロジェクトを進めたりする場合は、担当する部下にできる限り自分の力で考えさせる。それまでにない新しい技術や方法を考え出すこと自体に高い付加価値があるからです。しかし、考えること自体に付加価値はなく、やり方を知らないとほとんど進まない仕事もあります。こうした仕事の場合、トヨタ自動車の管理者は、「やってみせて指導する」ことを心掛けています。

 最も典型的な例は、生産現場における組み立てや加工、溶接、ボルト締めといった作業、すなわち、ものづくりの基礎的な技術や技能です。また、これらの仕事は言葉で説明するだけでは分かりにくい。そこで、上司やベテラン社員などが実際に作業する姿を見せて部下を指導するのです。

 海外でも高い品質のクルマを造るために、トヨタ自動車は元町工場(愛知県豊田市)内に、グローバル生産推進センター(GPC)を設置しました。ここでは、日本人のトレーナーが、海外工場で働く外国人社員にさまざまな作業のコツを教えています。まずは日本人のトレーナーが実際にやってみせた後、同じようにできるまで徹底して外国人に訓練を積ませるのです。外国人社員だけではありません。トヨタ自動車の国内工場やグループ企業の工場で働くことになった日本人社員も同じように指導しています。

編集部:確かに、生産現場で製品を組み上げていくような作業は、上司や先輩が手本を示した方が部下を効率的に指導できるでしょうね。逆に、部下からすれば、具体的なやり方を示してもらわなければ、どうしてよいか分からないのではないでしょうか。

肌附氏─私が新入社員だった頃のことです。生産現場研修で金型検査の実習を受けることになりました。現場に行くと、2種類の道具が置いてある。トレーナーからの指示は特にありませんでした。「やってみろ」と言われた私は、一瞬迷いましたが、一方の道具を使って作業を始めました。すると、しばらくして私の所に戻ってきたトレーナーは「ばか野郎! こんな道具を使うやつがいるか」と怒鳴ったのです。