編集部:部門としての目標達成を会社から厳しく求められる中で、業務へのモチベーションが低い部下を抱えて悩む管理者は多いかもしれません。人材論で「社員の2割が人財、6割が人材、そして2割が人罪」という話を聞いたことがあります。ひどい表現だとは思いますが、割合はともかく、やる気に乏しい社員はどの会社にも存在するのでしょうね。トヨタ自動車には、こうした部下を戦力化する仕掛けがあるのでしょうか。
肌附氏— 上司が業務を命じてもなかなか動かない社員や、できない理由ばかりをとうとうと述べる社員も中にはいるものです。しかし、最近の日本企業は社員の数を絞り込むところが多く、1人でも多くの部下に活躍してほしいことでしょう。
この連載の以前の回で、部下に期待以上の働きをしてもらうために、管理者は部下を「ねぎらう」ことが大切だと紹介しました。ねぎらいの言葉を掛けたり、褒めたりして伸ばす方法はトヨタ自動車の管理者もよく使っています。しかし、いつも優しく接するわけではありません。時には厳しく指導することも必要です。
編集部:どのように指導するのでしょうか。
肌附氏— 崖っぷちに立たせて、やらざるを得ない環境をつくることです。まず、会社は利益がなければ存続できず、給料ももらえないという当たり前のことを、やる気のない部下に徹底的に説きます。これを、ことあるごとにしつこく言い続けるのです。「屁理屈はいいけれど、成果を出していないじゃないか。君が給料に見合う最低限の成果を出しているのかきちんと評価しているぞ」と。
こうして危機感を与えた上で目標とノルマを課し、締め切りを設定して達成するまで厳しく管理します。「いつまでにこれを必ず完成させなさい。完成させなければ評価に響く可能性がある」と伝えて、追い込むのです。トヨタ自動車では、前向きな挑戦をして失敗した社員には、マイナス評価を付けずに再度挑戦する機会を与えます。しかし、こうした“敗者復活戦”のチャンスも、やる気のない社員には決して与えられることはないということも、該当する部下にしっかりと伝えることです。これにより、言い訳や逃げ道をなくし、緊張感を与えて業務に向かわせるのです。
いつまでたっても真剣に業務に取り組まない部下に対しては、心を鬼にすることも管理者には必要です。これまでに、部下に接する際には優しさが7割、厳しさが3割と言いました。この3割の1つが、崖っぷちに追い込む方法です。
編集部:「忙しくてできない」と言う部下がいた場合、本当に余裕がないのか、単にやりたくないための言い訳なのか、判断が難しい場合もありませんか。判断を誤ると、労働強化などと言われる可能性があるかもしれません。