本コラムでは、日本メーカーの管理者が抱える悩みに関して、トヨタ自動車流の解決方法を回答します。回答者は、同社で長年生産技術部門の管理者として多数のメンバーを導き、その後、全社を対象とする人材育成業務にも携わった経歴を持つ肌附安明氏。自身の経験はもちろん、優れた管理手腕を発揮した他の管理者の事例を盛り込みながら、トヨタ流のマネジメント方法を紹介します。
悩み
今年になって課長を任されることになりました。たくさんの部下ができ、新入社員も入ってきました。しかし、管理者となって感じるのは、部下が仕事に対する積極性に乏しいことです。命じたことはきちんとやってくれるのですが、それ以上の仕事はあまり期待できません。そのため、例えば新しい提案が上がってくるといったことが期待できないのです。部下に期待を超える活躍をしてもらう良い方法はありませんか。

編集部:最近の若手社員の特徴として「素直な人が多い一方で、積極性に乏しい」などと取材で聞くことがあります。個人差があるので十把一絡げに言えることではありませんが、多くの若手社員は上司に命じられたことはきちんとこなす。でも、残念ながらそれを超えた働きがあまり見られない、と。上司が全ての業務をコントロールし、部下全員にそれぞれ細かく仕事を割り振って指示していくわけにはいきません。自ら仕事を見つけて積極的に動くような部下になってほしいと願う管理者は多いはずです。

 以前、元トヨタ自動車副社長の蛇川忠暉氏を取材した際に、「トヨタで改革の号令を発すると、社員からアドバルーンのように提案が続々と上がってきた」と語っていたのが印象に残っています。トヨタ自動車には、なぜ積極的に動く社員が多いのでしょうか。

肌附氏— 結論から言えば、「心のマネジメント」を実践している管理者がトヨタ自動車には多いからでしょう。この連載の以前の回で述べた通り、心のマネジメントとは、部下が自発的に仕事をしたくなるように導くマネジメントのことです。部下の能力を最大限に引き出すために、トヨタ自動車の管理者はこれをとても大切にしています。

 復習になるかもしれませんが、重要なことなので、心のマネジメントとして具体的に実践すべき基本を簡単におさらいしておきましょう。
[1]仕事を命じる際にその仕事をしなければならない理由を丁寧に説明し、部下に納得してもらう。
[2]部署や会社としての目標に加えて、その仕事を行うことで部下が得られる利点を説明して、部下個人のモチベーションを引き上げる。
[3]その仕事で目指す目標を明確にし、管理者と部下の間で考え方の方向性(ベクトル)をそろえた上で、一目で分かるように「見える化」する。
[4]個々の部下の責任と権限を明確にし、その部下がどこまでの仕事をどのように進めていけばよいのかをはっきりさせる。

 こうした基本を必ず実践することで、トヨタ自動車の管理者の多くは部下のやる気を高めようと努めています。しかし、これだけではありません。シンプルですが、さらに重要なことがあるのです。

編集部:シンプルなもの?それは一体、何でしょうか。