本コラムでは、日本メーカーの管理者が抱える悩みに関して、トヨタ自動車流の解決方法を回答します。回答者は、同社で長年生産技術部門の管理者として多数のメンバーを導き、その後、全社を対象とする人材育成業務にも携わった経歴を持つ肌附安明氏。自身の経験はもちろん、優れた管理手腕を発揮した他の管理者の事例を盛り込みながら、トヨタ流のマネジメント方法を紹介します。
悩み
設計部門で管理者を任されています。今、最も悩んでいるのが、若手社員の育成です。リーマン・ショックで落ちた業績が回復しているのに、会社はあまり人を増やしてくれません。そのため、若手社員を即戦力にしようと努めています。ところが、定常的な仕事は割と早くこなせるのですが、少し課題が生じると途端に対応できなくなる若手社員が多いのです。何か良い方法はありませんか。

編集部:若手社員の育成に悩んでいるという声を、最近、多くの日本メーカーから聞くようになりました。「団塊の世代」の大量退職で職場からベテランが去る一方で、2008年のリーマン・ショック以降、固定費を抑えるべく会社は人材採用を絞り込みました。そうした中、業績回復によって忙しくなったので、上司や先輩が若手社員の教育に手が回らなくなっている。こうした事情が背景にあるようです。

肌附氏― 一人前になるために、若手社員にぜひ経験させておきたいのが、「人の嫌がる仕事」です。顧客や後工程からの苦情対応や、手や身体が汚れるような作業、手間が掛かる面倒な仕事など、多くの社員が眉間にしわを寄せるようなきつい仕事やつらい仕事を、あえて若手社員に担当させるのです。

 例えば、設計部門に配属された若手社員に、初めから設計業務だけを担当させるとします。すると、3D-CADを扱うことには早く慣れ、図面を描くことは比較的早くできるものの、机上で設計しているだけなので、例えば製品を構成する個々の部品・材料の意味や、加工技術や生産技術といったところまで十分に理解できない場合が多い。こうした状態では、何かトラブルや課題に直面した際に、自分で解決することができません。「私には分かりません」「それは私の専門/担当ではありません」というのが“常套句”になることでしょう。

 こうした若手社員が管理者になったケースは、さらに厄介です。トラブルや課題が発生しても、部下に「何とかしろ」と押しつけるだけ。自分ができないことに対して、もっともらしい言い訳や屁理屈で自己正当化に終始するような管理者になる恐れがあるからです。

編集部:なぜ、若手社員に人の嫌がる仕事をさせるとよいのですか。