本コラムでは、皆さんの悩みに関してトヨタ自動車流の解決方法を回答します。同社で長年生産技術部門の管理者として多数のメンバーを導き、その後、全社を対象とする人材育成業務にも携わった経歴を持つ肌附安明氏が、皆さんの現場で参考になる実践的で具体的な解決策を提供していきます。
悩み
技術開発チームでリーダーを任されています。上司から最も期待されているのは、やはり、顧客に喜んでもらえる新技術を生み出すことです。そのために、メンバーが日々知恵を絞り、ブレーン・ストーミングのようなアイデア会議も繰り返しているのですが、付加価値の高い新技術につながるアイデアがなかなか出てきません。こうした事態から脱する良い方法はないでしょうか。

(前回から)付加価値の高い新技術のアイデアを生み出したい。そんな読者の相談に対して肌附氏は「まずは顧客の立場になって考えよ」と話す。ただし、単に顧客に話を聞くだけではヒントは掴めない。例えば「困っていること」を聞くなど工夫して、現状のマイナスの部分を引き出すのが重要と説く。さらに肌附氏は、トヨタ生産方式の父、大野耐一氏の教えを紐解いていく…

自ら顧客となって体験する

肌附氏―もう1つ別の大野氏の教えも、新技術のアイデアを見いだす際に役に立ちました。それは、「百聞は一見にしかず。百見は一行にしかず」というものです。

 100回聞くよりも1回見る方がよく分かるという、前段の意味は有名ですからご存じでしょう。ポイントは後段です。これは、前段よりもさらに進んで「100回見るよりも、1回実行する方がよく分かる」という意味です。私はよく、この教えを実践していました。

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 具体的に言うと、自分が設計した金型や設備を使って自ら作業して体験していたのです。製造部門に頼み込み、生産ラインに設置された金型や設備の出来具合を、量産前の段階で自分が作業者の立場となって確認するためです。こうすると、床に丸を描いて立って作業者の作業をじっと観察するよりも、さらに課題や改善点を見つけやすくなります。なにせ、金型も設備も自分が設計したのですから、何をどう考えて造ったかは明白です。その上でさらに、自らユーザーとなって体験すれば、自分の目で探す以上に分かることがたくさん出てきます。顧客の立場になることを突き詰めると、こうなります。