前回より続く
編集部:肌附さんがトヨタ自動車の管理者を務めていた時に、初めは上司がなかなか受け入れてくれなかったけれど、いろいろ工夫したことで、うまく実践に移せた事例はありませんか。
トヨタ時代に「トライ試験工場」の新設を提案
肌附氏―トヨタ自動車の生産技術部門において、初めて「トライ試験工場」の設置とそれを支える組織体制の構築の提案をしたことがあります。当時、私は係長として、同部門でシリンダーヘッドを手掛けていました。技術(開発)部門から設計図を受け取り、金型の図面を作成して外部のメーカーに発注することが主な仕事です。その金型を製造部門、すなわち工場に持っていくのですが、量産前にその金型に不具合がないか、品質は十分か否かを試験(トライ試験)する必要があります。この仕事を専門に行うのがトライ試験工場です。ところが、当時はこのトライ試験工場とその体制がなかったのです。
それまで、トライ試験を担当していたのは製造部門でした。しかし、不満が多かった。「なぜ、生産技術部門が造ったものを、俺たちが試験して性能や品質を確かめなければならないのか」と。中には、金型が設備に載せられず、試験すらスムーズにできないものもある。製造部門の人は、中には、トライ試験がうまくいかないとヘルメットを地面にたたきつけて怒るような人もいました。無理もありません。彼らは時間通りに量産車を造るのが本来の仕事。それだけでも大変なのに、さらに新たな金型や設備のトライ試験までやらされるわけですから。
それでも、生産技術部門は「怒られるけど仕方がない」と思い込み、頭を下げて製造部門にトライ試験をお願いし続けていました。この状況を、私はおかしいと思いました。「トヨタ自動車には『後工程はお客様』という言葉がある。それなのに、我々は製造部門に迷惑をかけている。これは間違っているのではないか? やはり、我々生産技術部門が設計して造った金型や設備の品質や完成度は自らが保証してから、製造部門に引き渡すべきだ」と。こうして、私はトライ試験工場とその組織体制を造る提案を課長と部長にしたのです。
編集部:しかし、トライ試験工場を造るとなると、相当なお金が掛かりそうです。上司としても、そう簡単には首を縦には振れないでしょうね。