上司に熱意を伝えよう

肌附氏―確かに、そうかもしれません。しかし、私はいつもこう回答しています。「上司が自分の提案を検討してくれないというあなた自身は、どれほどの熱意を込めて自分の提案を上司に伝えているのですか」と。

 やるべきことだとあなたが真剣に考えるなら、熱意を持って、あの手この手で上司に訴えていくこと。これが最も大切なことです。私自身のトヨタ自動車における経験からいっても、上司が部下の言い分を聞くか聞かないかを判断する際、半分くらいは話の内容そのものではなく、その部下の熱意の程度が占めていたように感じます。まさに、熱意が上司の背中を押すのです。

編集部:それほどまでに熱意を重んじるのはなぜですか。

肌附氏―部下が、その提案に対してどれくらい強固な信念を持っているかは熱意の程度で見抜けるからです。そこに信念があれば、どれほど難しい案件であっても、最後まで部下はやり抜いてくれる。しかし、そこに信念がなければちょっと難しい壁に直面すると、何か理由を見つけて逃げてしまう。社内では部下から数多くの提案が上がってきますが、残念ながら、ものになるのはそのうちのごくわずか。多くの上司はこうしたことを経験上知っていますから、部下から提案があっても、「ああ、またか」と感じることが少なくないのです。

編集部:なるほど。でも、熱意を伝えると言われても、どのように伝えたらよいのでしょう。表現力を磨いたり、交渉術のスキルを高めたりすることが必要なのでしょうか。

肌附氏―上司が話を聞いてくれないと相談してくる人に、私は必ず「では、あなたは何回、上司にその提案を行ったのですか」と聞いています。すると、ほとんどの場合、「1回です」と答えるのです。

 しかし、果たしてこれで上司が熱意を感じるでしょうか。上司からしてみれば、部下から1回提案されて、とりあえず突き返してみたらそのままだったということは、その程度の提案だったのだな、と考えるのではないでしょうか。ひょっとすると、忙しいために忘れてしまうかもしれません。でも、1回却下しても、1回めの提案を改善した2回め、それを却下してもさらに改善した3回めと、何回も何回も提案してくれば、「あいつ、また言ってきたよ」と思われるようになり、「あいつがそこまで言うなら、今度、じっくり聞いてやろうか」と思うのではないでしょうか。極端に言えば、上司とけんかしてでもその提案をやり抜く信念があるか否か。上司に言うことを聞いてもらう際には、それが問われるのです。

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