スマートフォン「iPhone7」からイヤホンジャックを削除したのに合わせて登場した米Apple社の左右独立型のBluetooth無線イヤホン「AirPods」。「ヒアラブル(Hearable)機器」の代表例とされるこの製品の意味について、ウエアラブルコンピューティング研究の第一人者で「ウエアラブルの伝道師」とも呼ばれる神戸大学大学院工学研究科電気電子工学専攻 教授の塚本昌彦氏に話を聞いた。
塚本昌彦(つかもと・まさひこ)
神戸大学大学院工学研究科教授
塚本昌彦(つかもと・まさひこ) 1989年京大院工学研究科修士課程修了、シャープ入社。1995年阪大工学部講師、同大情報科学研究科助教授、神大工学部教授を経て2007年から現職。ウエアラブルコンピューティング、ユビキタスコンピューティングのシステム、インタフェース、応用などに関する研究を行っている。応用分野としては特に、エンターテインメント、健康、エコをターゲットにしている。2001年3月よりHMD(ヘッドマウントディスプレイ)およびウェアラブルコンピュータの装着生活を行っている

塚本氏 今、ヒアラブルという言葉が世界で流行して始めている。話題の中心は左右独立型で完全ワイヤレスタイプの無線イヤホンだ。米Apple社の「AirPods」はその代表格とみなされている。

 AirPodsは無線イヤホンとしての利便性のウェイトが大きいとは思うが、ポンとタッチして(音声アシスタント機能の)Siriを呼び出せるなど、従来のイヤホンを少し超えたコンピューティングに近いような使い方が実装されている。

AirPods以外にも高機能な製品がたくさん出てきている

 実はAirPods以外にも高機能な製品がたくさん出てきている。ここでいう高機能は、「音が良い」といった高級オーディオ機器的な価値ではなく、センサーが入っていたり、単独で音楽再生ができたりといったデジタル機器としての多機能の意味だ。

 これら高機能無線イヤホンがいわゆるヒアラブル機器だ。日本国内ではまだあまり知られていない言葉だが、世界的には注目されている。実際、現象としてすごく面白い。

 ウエアラブル業界で「眼鏡型と腕時計型、どちらがいいか?」などと議論している間に、突如イヤホン型という答えが示された。大袈裟には騒がれず、Bluetoothイヤホンとして立ち上がってきたのが面白い。

 特に注目すべきは、イヤホンは汎用、つまり多目的に向いている点だ。眼鏡型と腕時計型以外のウエアラブル機器はほとんどが専用だった。例えばヘルスケア専用とか、ゲーム専用といった具合だ。

 一方、無線イヤホンはオーディオ専用で始まり、ヘルスケアが入ったり、入力デバイスの役割が入ったり、アシスト機能が入ったり、音声読み上げ機能が入ったり、単独利用できるようになったりといった具合に汎用化してきている。

 4~5万円するような機種になるが音楽データを入れてスマホなしでイヤホンだけでも音楽を聞けるものもある。非常に面白い。こうした方向性を含めて「ヒアラブル」と呼ぶのがふさわしい。

――ヒアラブル、イヤホン型のウエアラブル機器はなぜ受け入れられるのでしょう。

塚本氏 1番大きいのは、すでに皆が街の中でイヤホンを付けていること。ケーブルがなくなるとさらに便利になる。付けている姿にも全く違和感がない。しかも、眼鏡型のように視野をふさいだりせず、自分の活動の中で何も邪魔にならない。