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 前回は大脳新皮質、小脳、大脳基底核それぞれのモデルをおさらいしました。特に大脳新皮質については、視覚野や聴覚野といった個別のモジュールのモデルや、基本的な動作原理としての教師なし学習について、最新成果を交えて紹介しました。今回は、こうしたモジュールを統合して、脳の大局的な構造の再現を試みるモデルや理論を紹介します。

モジュールを階層的に接続

 大脳新皮質のいくつものモジュールを統合するモデルの一例が、米Numenta社のジェフ・ホーキンス(Jeff Hawkins)が提唱する「Hierarchical Temporal Memory」(HTM)です(図1)。視覚・聴覚・体性感覚・言語といったさまざまなモジュールが、ピラミッドのように階層的に接続されていると考えます。ホーキンス自身は、HTMの目標は脳を完全にシミュレートすることではなく、脳の処理を模倣することでより柔軟なマシンを作る方向だとしています。

図1 Numenta社のJeff Hawkins氏
図1 Numenta社のJeff Hawkins氏
(写真:林幸一郎)

 HTMは、脳が扱う信号として、時系列のデータに主眼を置いています。大脳皮質は、入力されてきた時々刻々と変化する信号を観察し、同じような並びのデータが来たらそれを一つのグループとしてまとめる(ホーキンスは、よく「名前を付ける」と表現しています)ことで、より抽象的なデータになっていく、と考えます。これらのデータをもとに、未来を予測し続けるのが大脳皮質の基本的な役割というのが同氏の主張です。

 HTMは単一のアルゴリズムを指すわけではなく、たとえば「ディープラーニング」のようにアルゴリズムの総称です。最初はZeta1と呼ぶアルゴリズムを開発していたようですが、後になってFDR(Fixed-density Distributed Representations)やCLA(Cortical Learning Algorithms)と呼ぶアルゴリズム、その次の世代のGen3というアルゴリズムに主眼を置くようになったようです(今の主流はCLAで、Gen3は研究はしているようなのですが詳細は明らかではありません)。大雑把に言えば、HTM=CLAやGen3のことだと思って良いでしょう。