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 今回取り上げるのは、大脳基底核(basal ganglia)のモデル化です。大脳基底核は、古くは運動制御に関わると考えられていましたが、今では運動制御はもちろん、感情、学習など幅広い部分で主要な働きをしていることが分かっています。

 一般に、知能・思考の中枢といえば大脳新皮質が挙げられますが、汎用人工知能(AGI:Artificial General Intelligence)を実現する上では、大脳基底核と次回に触れる小脳の方が、むしろ注目すべき存在だといえそうです。大脳新皮質の構造や大きさには、動物の種によってかなりの差があるのに対して、大脳基底核と小脳(特に小脳)は、外観こそ大きく異なるものの、哺乳類だけでなく爬虫類や鳥類でも同じような構造と役割を持つと考えられているからです。種に関係なく同じような構造であることは、これらが普遍的な処理を実行していることを示唆します。

 なお、大脳基底核の生理学的な性質や特徴は、連載の第5回で触れたので、併せてご覧ください(図1)。

図1 線条体と扁桃体から成る大脳基底核
図1 線条体と扁桃体から成る大脳基底核
大脳基底核は脳のほぼ中心部にあり、丸い形をしたレンズ核(lentiform nucleus)から尾状核(caudate nucleus)が伸びるという特徴的な形をしています。大脳の他の部位同様、左右に1つずつあります。(図:Gray, H., Gray’s Anatomy of the Human Body,1918を基に加筆)
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