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 前回の視覚野に続いて、今回は聴覚野のモデルについて考えてみましょう。視覚野と比べると聴覚野には不明な点が多く、一次聴覚野(A1)はまだしも、二次視覚野(A2)以降の連合野のことはあまり分かっていません(図1)。それでも一次視覚野で得られた知見も参考にしつつ、コンピューター上でモデル化を試みる研究があります。なお、実際の脳の聴覚野ついては本連載の第7回「同様な構造で処理される五感」で扱いましたので、必要に応じて併せてご覧ください。

図1 聴覚野
図1 聴覚野
濃い色で表示されている場所が一次聴覚野。二次聴覚野は一次聴覚野を囲むように存在し(ここでは図示していません)、その外側に聴覚連合野(薄い色で示した部分)があります。(図:Gray, H., Gray’s Anatomy of the Human Body,1918を基に加筆)

「トノトピー」はあるのか

 前回紹介したように、大脳皮質にある一次視覚野では、はっきりとした「レチノトピーマップ」が観察されます。レチノトピーとは、網膜上の細胞の位置関係が、それにつながる視覚野の神経細胞(ニューロン)の位置関係に反映されることを指します。

 これと同様に、一次聴覚野にも「トノトピー」(あるいは単に周波数マップとも)と呼ばれる構造があり、音の波長(周波数)に応じて、対応するニューロンの相対的な位置が決まるとされています。大雑把に言うと、低周波数(だいたい100Hz)の音に反応するニューロンは一次聴覚野の背側、高周波数(だいたい20kHz)の音に反応するニューロンは内側にあり、担当する周波数が異なるニューロンが、大脳皮質上にグラデーションを描くように配置されている、と考えられてきました。 

 ところが最近になって、少なくともマウスの聴覚野を詳細に調べてみると、これらのニューロンは視覚野ほどは整然と並んでいない、むしろランダムといっていいような配置になっていることが分かりました1)。ただし、ニューロンの配置がどれくらい乱雑なのか、人間ではどうなのかなど、よく分かっていないことが多いのも事実です。トノトピーの存在を支持する研究もあるため、聴覚野の本当の構造を知るには、より詳細な測定が必要だと思われます。