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 今回取り上げるのは記憶です。脳の中で記憶がどう実現されているのか、その概要を見ていきましょう。最初に用語を整理しておくと、情報を覚えることを「記憶」、「記銘」といい、思い出すことを「想起」と呼びます。特に、自ら思い出そうとして想起することは「再認」、他の要因からの連想によって想起することは「再生」と言います。さらに、これらの情報を完全に忘れてしまうことを「忘却」と呼びます。

 一口に記憶といっても、その種類はさまざまです。いくつもある分類方法の中で、今回は最も一般的なものを紹介します。

 まず、記憶の最も大雑把な分類としては短期記憶と長期記憶があります。前者はある程度時間が経つと完全に忘れてしまう(忘却)もの、後者は脳内に固定されて忘れることがないものです。

 「長期記憶は忘れることがない」と書くと、不自然に思われるかもしれませんが、これは「脳には完全に刻み込まれていて、思い出す(想起する)きっかけがないだけ」という考え方に基づいています。例えば、大昔に見た映画のストーリーや歌を思い出せと言われてできなくても、実際にその映画や歌を見聞きし始めると展開を次々と思い出したりしないでしょうか。これは、記憶としては存在するものの、何らかの理由で思い出せないだけで、忘却してしまったわけではないからと考えられます。長期記憶はもっと細かく分類できますが、これは追々見ていきましょう。

短期記憶は4項目まで

 短期記憶(short-term memory、STM)は、最も持続時間の短い記憶です。例えば、その場でかけるために電話番号を覚えるとか、初対面の相手の顔と名前を覚えるとか、買い物の時にレジでいくら出せばいいかとかいった場合の記憶で、特に覚えようとしなければ数秒から数分程度で完全に忘れてしまいます。短期記憶のことをワーキングメモリと呼ぶ場合もあります。