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 前回は、大脳の表面を覆っている大脳新皮質を取り上げました。今回は、大脳新皮質に包まれた内部にある、間脳(diencephalon)や大脳基底核(basal ganglia)の解剖学的な構造や役割を紹介します。これらの構造は非常に入り組んでいますが、これらの間をつなぐ信号の経路から、脳の動作を読み解くヒントが得られます。

 第2回でも触れましたが、間脳は大脳の一部で、間脳+終脳(大脳半球)=大脳という関係があります。間脳は、下位の中枢からの入力を終脳に転送する中継地の役割を果たす部分です。

 大脳基底核は終脳の内部にあり、今後も度々登場する非常に重要な部位です。昔は大脳基底核の機能は運動の細かい制御だけだと考えられていたのですが、現在は運動調整はもちろん、感情、動機付け、学習などに重要な役割を果たしています。今回も、かなり詳しく説明します。このほか大脳には、記憶に関わる海馬などがある大脳辺縁系も含まれます。間脳や大脳基底核ともつながっているため、今回の説明にも登場しますが、詳しくは記憶に関する回などで紹介していく予定です。

左右に二つずつ存在

 間脳や大脳基底核の構造は非常に複雑で、多数の神経核が複雑に接続されています。そこで脳の深部から、構造を順番に見ていきましょう。

 図1は、脳を真ん中あたりで縦に半分に切って、その断面を示したものです。脳の中央には、脳梁・中脳・橋・延髄などがあります。脳梁(corpus callosum, CC)は大脳の一部で、右脳と左脳を相互に接続する約3億もの神経線維の束です。砕けた言い方をすれば、右脳と左脳が情報をやり取りするためのケーブルです。脳梁そのものは情報処理をしているわけではありませんが、分かりやすさのために表示しました。

図1 脳の断面図(中央部)
図1 脳の断面図(中央部)
(図:Gray, H., Gray’s Anatomy of the Human Body,1918を基に加筆)
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 脳梁の下にある脳下垂体(pituitary gland, 単に下垂体とも言う)は間脳の一部で、ホルモン分泌のための器官です。その下の中脳・橋・延髄は、今回の話題である大脳とは別の器官、脳幹を構成しています(第2回参照)。脳幹は、呼吸など、生き物としての根源に関わる機能を担う部分です。例えば中脳は、いくつかの反射(急に眩しい光が当てられたときに目を瞑る、環境の明暗に応じて瞳孔を収縮させる、立っている状態で急に身体を押された時にバランスを取って倒れないようにするなど)や、歩行パターンのリズムを生んでいます。ただし、これらの器官は人工知能を作るという目的からは少し外れるので、本連載ではこれ以上説明しません。

 それにも関わらずこれらの器官を紹介したのは、これらがちょうど脳の真ん中に位置しているからです。以下で紹介する他の器官、たとえば視床や線条体などは、すべて左と右に一つずつ、合計2つ存在します。大脳新皮質だけでなく、これらの器官も左右に分かれて存在しているのです。図1は脳の右側半分の断面を示していますので、視床や線条体などは、図の奥行き方向、より右耳に近いところに配置されています。