動物と根本的に違う

 去年の12月、私の1歳半の息子がクリスマスツリーの飾りが落ちているのを見つけて拾い上げていました。私が「もとのところに戻しておいて」と言うと、彼は迷うこと無くクリスマスツリーがあるところにいって適当な枝に飾りをひっかけていました。これは今のロボット工学からすると驚異的な能力です。本来別のところにあるものが落ちていることを認識し、拾い上げ、私の発言から意図を推測し、手に持っているものがクリスマスツリーの一部であることからツリーがどこにあるか思い出し、移動し、適当な場所に設置するだなんて、現在はどんなに賢いロボットでもできません。そもそも障害物だらけの場所をあんなに滑らかに歩行することがまず無理です。

 人間でなくても、たとえばネズミであっても段差を登って迷路を探索してボタンを押して餌をとる、なんてことはあっという間にできますし、一度学習したらちょっとくらい環境が変わってもなんなくこなせます。そもそも、「不安定な場所を歩いて行き、転倒してもすぐに立てる」レベルのタスクは、最近ようやく米Boston Dynamics社の4足歩行ロボット「Big Dog」 や2足歩行ロボット 「Atlas」 などが登場したくらいなのに、人間はもちろん、昆虫ですらできます。どうも、今のロボットと動物は、物事の処理の仕方が決定的に違いそうです。

 従来の人工知能は、ある目的にものすごく特化してうまく実行することはできるのですが、動物の知能のようにさまざまな状況に柔軟に対応することができません。生き物にとって高度だと思われていること(微分積分の計算をする、チェスや将棋をする、etc.)に対して高いパフォーマンスを発揮している一方で、生き物にとって簡単な問題(歩く、転がってきたボールを拾う、餌を探す、捕食者から逃げる、会話する、etc.)はまったく歯がたたないという、簡単そうなものは難しく、難しそうなものは簡単だという逆転現象があります。これをモラベックのパラドックスといいます。