Schaefflerグループが開発に取り組んでいる48Vシステムの一つに、「eAxle(電動アクスル)」がある。その最大の利点は、出力をエンジンや変速機)を通過させないことでロスを最小限にして、駆動力として使い切れることにある。eAxleは、48Vモーターの出力を2段の減速ギアを介してプロペラシャフトあるいはドライブシャフトに伝達する機構である(図3)。減速ギアは2段変速、およびニュートラル状態に対応し、1速では車速15km/hまでのEV走行をするe-Creeping、2速ではエンジンのトルクをアシストする「e-Boost」や60km/h以下での定速走行をアシストするe-Sailing、120km/h以下で減速エネルギーを回生する回生ブレーキを実現する。また、エンジンだけで走行する時にニュートラルにすることで、モーターの引きずり抵抗を受けない走行が可能になる。

図3 eAxleの機構
モーターはプロペラシャフトと同軸に配置する。2段の遊星減速ギアとシフトシステムを備える。
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 ただし、48Vシステムでは高電圧システムに比べて出力が小さく、限られた範囲でしかEV走行ができない。このため運転者にとっては、EV走行の実感に乏しくなる。そこで、「eTV(電気機械式トルクベクタリング)機能」をeAxleに追加した。これにより、車両の運動性能を向上させて運転する楽しさを体感でき、緊急回避性能を向上させて安全性を高めることができる。2段の減速ギアの他にトルク・ベクタリング・ギアと遊星デファレンシャルギアをシステムに組み込み、トルクベクタリングを実現している(図4)。48VのBASのモーターなどを流用し、安価なシステムとすることを目指している。

図4 eTVを実装したeAxle
2段の減速ギアに加えてトルク・ベクタリング・ギアと遊星デファレンシャルギアによってトルクベクタリングを実現する。コスト削減のため、モーターはBASから流用する。
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図5 実験に使用する48Vコンセプトカー
ベース車両はドイツAudi社の「TT」。eAxleをリアアクスルに搭載し、eTV機能や電動機能の実証実験を行っている。
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 このeAxleを実際の車両に組み込み、eTVやe-Sailingなどの機能の実証実験を進めている(図5)。車両は4WD(4輪駆動)車を選択し、通常の後部のデファレンシャルギアに置き換える形で搭載している(図6)。プロペラシャフトにも駆動力切り離し用のクラッチを搭載し、FF(前輪駆動)、FF+eTV、4WD+eTVなど様々な駆動レイアウトで実験できる。

図6 eAxleの車両への搭載状態
通常のデファレンシャルギアに置き換える形で車両に搭載する。
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 この実証実験車両でダブルレーンチェンジ試験や旋回加速試験を行い、eTVによって運動性能を向上できるかどうかを調べた。その結果、eTV機能を搭載したeAxleは、パワートレーン電動化の新しい提案になり得ると考えている。CO2排出量についても、最大で10%削減できることを確認した。今後、モーターの最大出力を20kW程度まで高めることで、CO2排出量の一層の削減や、車両をより高度に制御するための開発を進める予定である。