多相設計がもたらすメリット

 新開発のモーターは、多相設計になっている。多相モーターには(1)機能統合が容易、(2)小電流化やモジュールの小型化が可能、(3)EMI(電磁妨害)を与えにくい、(4)スイッチングの高速化、(5)効率・拡張性・適合性の向上─といった利点がある。その結果、コスト低減や機能向上というメリットが得られる。

 一方で多相モーターの設計には、いくつかの難しさがある。多相システムを制御するには高性能のマルチコア・マイコンが必要となり、各相に対応したスイッチング素子「IGBT (絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ)」を統合しなくてはならない。

 MotorBrainにおける検証の結果、モーターは16極・9相・18スロットの設計にした。ローター磁石の極数は16(N極/S極の1組=2極で合計8組)であり、ステーターに独立したコイルを9個(9相)、それを2組使うため合計18個のコイル(18スロット)を配置している。巻線構造は、直列と並列のいずれの接続も可能な二つの対称ユニット(それぞれ9スロット)で構成する。

 高速性と低めのインバーター電圧を考慮すると、この3個のコイルは巻き数を少なくする必要があるため(従って、線径を太くする必要があるため)、複数本の並列巻線を使用した。線径数mmの巻線に1kHzを超える基本周波数の電流を流すと、巻線内に大きな渦電流損失が生じる。しかし並列巻線では、複数の巻線中を電流が均等に流れやすくなる。

 今回の9相設計のモーターでは、3個の隣接したコイルを一つのコイルセットとし、三つのコイルセットを、いずれも三つの異なる位相に分けた。出来上がった九つの位相は、三つの3相システムに分かれる。冗長性を確保するため、三つの3相システムには、それぞれ独立したスターポイント(3相システムにおけるスター結線で、3本の線を1本に結合できる点)を設けた。

 これにより、いずれの3相システムでもインバーター出力電圧をフルに使用でき、回転数を上げることができる。また、たとえ一つの位相が失われても(さらに言うなら、一つの3相システム全体が失われても)、残りの二つの3相システムが動いていれば、50%を超える出力を確保できる。

 インバーターの統合を目指したこの9相方式は、位相電力の低減につながるため、同一の電圧で必要となる相電流が小さくなり、インバーターモジュールの小型化が可能になる。そのため、モーターとインバーターを統合する上での自由度が向上する。