大手電力の経営を安定化させてきた一般担保付社債は2025年をめどに発行できなくなる。いよいよ大手電力は資金調達面でも「普通の会社」になるわけだ。しかし、依然として大手電力の資金調達方法に変化の兆しは見えない。社債市場と大手電力の経営問題に精通するアジアエネルギー研究所の廣瀬和貞代表に解説してもらった。

 日本銀行による異次元の金融緩和政策の継続で、極端な低金利状態が長期にわたって続いている。この政策が始まった2013年4月当初、日銀は「2年間程度で2%の物価上昇を実現する」という目標を掲げた。

 だが、目標達成の時期は、6度も先送りされ、出口に向かうための議論すら始められない状況にある。2016年には長短金利操作が追加され、短期のマイナス金利のみならず長期金利も0%程度に誘導されることとなった。

 一方で、国債や上場投資信託などの大量の買い入れによって日銀のバランスシートは膨張している。今回の金融緩和政策の開始直前の資産規模は約164兆円。現在は3倍を超えて約525兆円(2017年12月10日時点)となっている。

 また、常に大量に購入する買い手が存在することで、需給に基づいた価格を示す機能が債券市場・株式市場から失われるという副作用も大きくなっている。このような異次元の金融緩和政策は永久には続けられず、いずれは終了せざるを得ない。

 日銀の目標である年率2%の物価上昇が実現して金融緩和政策を終了する場合、期待以上のインフレを防ぐために、短期金利を2%以上に、長期金利はそれ以上の水準に誘導することが必要となる。反対に、日本政府の財政状態への信頼が失われることで、国債の価格が暴落して極端なインフレと高金利になる可能性もある。

 いずれにせよ、金利水準が上昇するシナリオは避けられない。それがいつ始まるかが不透明なだけである。

大手電力各社は財務が脆弱なまま収益低下へ

 ここで、大手電力(旧一般電気事業者)の財務と資金調達の状況を見てみよう。

 電気事業は典型的な設備産業であり、大手電力各社は長期にわたる安定的な資金の調達が不可欠である。長期資金の調達のためには、利益を蓄積して財務体力を強め、信用力を高めることで、有利な条件での銀行借入や社債発行を行うことが原則である。

 しかし日本の電力会社の場合は、第二次世界大戦後の急速な経済復興を支えるため、利益の蓄積による財務体力の強化を待たずに、総括原価方式による料金規制によって利益を安定させてきた。この仕組みで信用力を高め、負債(銀行借り入れや社債発行)による資金調達を容易にした。

 さらに、一般担保付社債の発行が認められたことも、長期安定資金の調達に有利に働いた。一般担保付社債とは、社債発行会社のすべての財産について、会社が倒産した際に他の債権者よりも優先的に弁済を受ける権利が付いた社債である。

 一方で、料金規制は超過利潤を認めず値下げを求める仕組みであったために、大手電力各社の資本の蓄積は進まなかった。結果として、大手電力の財務体力は、過去から現在に至るまで脆弱なままだ。電力システム改革による自由化が進展することで、総括原価方式による料金規制は大幅に縮小した。そこへ、新電力との小売り競争が加わり、大手電力の連結売上高は漸減している。