2017年9月末時点の発行残高が約60.9兆円の普通社債の中で、電力債(残高約9.3兆円)は約15%を占める。2017年10月以降も発行が堅調で、普通社債発行額の約20%を占めている。

 ただし、一般担保付社債の発行が許されるのは2025年までであり、それ以後は大手電力に認められていた特別な資金調達手段はなくなる。資金調達に関しても「普通の会社」となる。

2017年度下期(10月以降)も電力債の発行は活発
2017年度下期(10月以降)も電力債の発行は活発
大手電力各社の社債発行状況
[画像のクリックで拡大表示]

 大手電力各社の持つ長期資金は、主として固定金利で調達したもので、償還までの間に金利環境の変化の影響は受けない。実際に、各社の有価証券報告書に示された事業リスクの認識においても、「市場金利の変動及び格付の変更により当社グループの調達金利が変動し、当社グループの業績は影響を受ける可能性がある」としつつも、「ただし、有利子負債残高の多くは固定金利で調達した長期資金(社債や長期借入金)であるため、市場金利の変動による業績への影響は限定的と考えられる」(中国電力・2017年3月期有価証券報告書16ページ)としている例が多い。

 しかし、電気事業は設備産業であるため、構造的に低収益となった場合には、短期間での業績の回復は難しい。また、信用力が低下すれば多額の負債を短期間に再編するのも困難となる。調達金利が固定であることは、ある程度の時間的な猶予をもたらすものとはいえ、事業構造・負債構成の変更に時間が掛かることも事実である。

金融緩和政策により失われた債券市場の機能

 本来であれば、社債投資家がその行動によって、電力業界に対して警鐘を鳴らし始めるべきだが、日銀の多額の国債購入の副作用により、債券市場の機能が低下している。

 つまり、需要に対して極端に供給が細っている国債の代替として電力債が好まれるため、投資家の選好によって発行体会社の事業リスクに応じた価格がつく市場となっていない。しかし、金融緩和政策の終了により日銀が国債購入規模を変更すれば、電力債が現在のように安定的に発行できるかどうかはわからない。

 償還を迎える社債の代替として銀行に融資を求めることも考えられる。一般に、長短の金利水準が正常化すれば、金融機関の業績には好影響がある。しかし、主要各行とも電力セクターへの貸し出し額は極大化しており、他のセクターへの融資が拡大したとしても、電力債償還分全額を銀行が肩代わりできるかどうかは、これも不明である。

 いずれにせよ、従来の資金調達手法の変更を迫られる時期が近づいているにも関わらず、金融緩和政策の継続により、実態以上に快適な資金調達環境が続いていることで、電力各社に対して正常なシグナルが点灯していないのが現状の最大の問題点である。

 これは大手電力各社だけの問題ではない。金融機関の側も、業界全体の問題としてオーバーバンキングの状態が続いており、メガバンク3行ともにさらなる事業リストラを計画している。また、金融緩和の状況下でも資金運用手段が限られているため、特に地域金融機関の間で業績の悪化から再編の可能性が取り沙汰されるなど、従来の常識にとらわれない発想が求められている状況である。

 電気事業のファイナンスのあり方について、電力業界だけでなく、金融機関や債券投資家、株式投資家も含めて、社債発行以外の新しい手法に関する知恵を出し合い、練り上げていくことが必要である。今までの負債一辺倒の資金調達から、転換社債やハイブリッド証券(負債と株式の双方の性質を持つ証券)も含めた、広い意味での株式による調達を組み合わせ、資金調達手段を多様化していくことが求められている。一般担保付社債が発行できなくなり、大手電力が「普通の会社」になるまでに、残された時間は少ない。

廣瀬和貞(ひろせ・かずさだ)
アジアエネルギー研究所代表
東京大学法学部卒、日本興業銀行、ムーディーズを経て現職。デューク大学MBA、日本証券アナリスト協会検定会員、経済産業省総合資源エネルギー調査会委員