エネルギーベンチャーを後押しする構造的な変化とは何か。まず、政府が進める電力・ガスシステム改革がある。長期にわたる大変革であり、エネルギー業界の地殻変動を引き起こす可能性を秘めている。大手企業は合従連衡による規模の戦いに引きずり込まれるだろう。そして、その間隙を縫って、エネルギーベンチャーがニッチで成長するチャンスが出てくる。

 第2の変化は、2020年代初めにかけて急加速するスマートメーターの導入だ。当初、想定していた導入スピードは実にゆっくりとしたものだった。しかし、東日本大震災を契機に、大手電力各社の業務効率化や電力需要のピークカット対応が求められたことで、普及スピードが急加速した。2024年までに日本の全世帯に設置される計画だ。

 スマートメーターは従来型の電力計とは異なり、通信機能を搭載している。自動検針や遠隔での開閉操作などに加えて、リアルタイムの電力使用データを収集・分析・活用できる。ICT(情報通信技術)やIoT(モノのインターネット化)に強みを発揮できるベンチャーに対して、格好の事業インフラが整備されようとしている。

 第3は、需要家の意識の変化である。東日本大震災は、非常時の備えへの意識を高めた。停電などでエネルギー供給を断たれても、自家発電装置などの活用で、最低限の生活や業務活動を維持できるということを、深く認識した。地域レベルでの取り組みも始まった。

 そして需要家は、低炭素電源としての再エネへの関心を高めている。2015年12月に採択されたパリ協定が、再エネへの意識高揚をさらに後押ししている。需要家に寄り添い、地域に根差した細やかなビジネスを展開するのは、柔軟な対応力のあるベンチャーの得意分野だ。

エネルギーベンチャー、生き残りの条件

 エネルギー業界の構造変化は、エネルギーベンチャーにとって追い風だ。ただし、過去のエネルギーベンチャーの失敗を振り返ると、ベンチャー自身のスタンスにもこれまでとは異なる覚悟と工夫が必要だ。

 これまでエネルギーベンチャーが失敗した理由は何だったのか。改めて分析すると、大きく3つの要因が浮かび上がる。(1)設備投資型ビジネスへの傾斜、(2)成功体験への固執、(3)制度や政策への過度の依存である。

 1つめの設備投資型ビジネスへの傾斜の事例としては、FITの導入以前の日本風力開発や、ファーストエスコによる初期のバイオマス発電事業がある。両社はプロジェクト開発から事業運営までの一貫モデルをとったため、資金回収の前に資本投下を続けざるを得なくなり、手元資金が回らなくなった。その結果、日本風力開発は業績低迷に苦しみ、ファーストエスコは事業分割によって小売り電気事業をF-Power(東京都港区)に譲渡するに至った。

 2つめの成功体験への固執は、変化対応力の不足と言い換えられる。事例としては、2000年代半ばのエネサーブの自家発電代行ビジネスが挙げられる。同社の自家発電代行ビジネスは、あまりに成功したビジネスモデルだった。このため、受電設備の保安点検と遠隔監視サービスで積み上げた約8000社の顧客基盤を生かして、省エネ支援など新たなサービスを展開することができなかった。

 結果的に、一本足打法の事業展開となり、原油高や大手企業の参入という外部要因の影響をまともに被り、立ち行かなくなった。エネサーブは2007年に大和ハウス工業の連結子会社になった。

 3つめの制度や政策への過度の依存では、2014年秋時点のエナリスが当てはまる。エナリスは本来、電力需給管理技術をベースに電力ビジネスでのイノベーションを目指すベンチャーであった。しかし、成長を焦ったために、太陽光ブームに過度に没入し、九電ショックの直撃を受けた。

 エネルギーベンチャーは、過去の失敗に学び、大手企業とは異なる特徴と成長ストーリーを描くことが重要だ。大手企業との差異化のカギは、顧客接点と地域密着の重視や、柔軟な対応力にある。