東京エリア以外を含めて全国的に現行のインバランス料金制度が機能不全に陥っていたことを踏まえ、エネ庁は10月から同制度を改定することと合わせて、インバランス発生事業者の取り締まりを強化する方針を打ち出した。

 これを受け、6月以降、電力需給を司る電力広域的運営推進機関は、相当量のインバランスを繰り返し発生させている電気事業者76社に対し再発防止策を要請。複数社にヒアリングや報告徴収を実施した後、8月25日には新電力のF-Power(東京都港区)に対して「繰り返し供給力不足を発生させた」ことなどを理由に広域機関の業務規定に基づく改善指導を行った。

 だが、どこよりも大量の余剰バランスを発生させて利益を上げた疑いのある東電EPは指導や勧告の対象にはなっていない。余剰インバランスは、電気事業法に規定される供給力確保義務に抵触しないためというのが有力な見方だが、本来のインバランス制度の趣旨や需要家負担の大きさに照らして著しくバランスを欠く。

市場価格が上昇すれば、インバランス料金も高くなる

 東電EPは電力市場における支配的事業者(ドミナント事業者)である。同社の余剰インバランスは、一事業者の局所的な需給管理の問題を超えている。

 東電EPが予備力(不測の事態に備える電源)を本来のルールを大きく超えて抱え込み(予備力二重計上問題)、卸電力市場に拠出する電力を減らし、過剰な予備力を使って余剰インバランスを大量に発生させている可能性は前回記事で指摘した通りだ。

 支配的事業者である大手電力は、卸電力市場における前日スポット市場に、ルールに基づいた売り入札が事実上義務づけられている。

 余剰インバランスを出す一方で、市場投入を減らしたとすれば、卸電力市場におけるスポット価格の上昇を誘導した可能性も高い。

 スポット価格が高くなれば、それを反映して余剰インバランスの買い取り単価であるインバランス料金も高めになる。β値の問題に加えて、余剰インバランスの収益をより効果的に増やしていた仕掛けさえ見えてくる。

 余剰インバランスを介した東電PGから東電EPへの利益供与といえるような構図が存在する中では、新電力や他のエリアの大手電力にとってもイコールフッティングの環境下で競争していることにはならないだろう。

 事実だとすれば、ルール通りに電源の市場投入をしているかのような印象を与えつつ、実際は行っていないという虚偽や、市場価格を操作する相場操縦の疑いも出てくる。金融市場であれば、そうした行為自体が意図的か否かにかかわらず犯罪と見なされる。

 これまで電気事業は、供給者側の論理で展開されてきた。今回の件もその延長線にあると言えるかもしれない。しかし、電力システム改革は供給側の論理から需要家側に主権が移行する改革だ。需要家ファーストを目指す電力ビジネスの民主化である。

 大口需要家に対して東電EPが安値攻勢をかける裏で、大量の余剰インバランスを発生させている。支配的事業者の安値攻勢は一時的には需要家の利益になっても、それにより競合がいなくなれば、その後は値上げを招く可能性がある。過剰な余剰インバランスの買い取りコストが託送料金に上乗せされれば、結局、国民負担の増加につながる。

 かつての大義名分であったり、社会システムを支えてきた安定供給や総括原価に基づく電気事業の枠内では許されていたことでも、電力自由化や市場化の下では決して許されないことがあることを関係者はもっと認識すべきではないか。