前回の当コラム「決算分析で見えた、東電・安値攻勢の秘密」で、東京電力エナジーパートナー(EP)が大量の「余剰インバランス」で収益を上げている可能性を指摘した。政府もこの問題の精査に乗り出す。今回は、東京電力パワーグリッド(PG)の「インバランス収支計算書」から、そのインパクトに迫った。

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 電力・ガス取引監視等委員会は8月28日、有識者会議の場で、「余剰インバランス問題」や「過剰予備力問題(予備力二重計上問題)」を精査すると表明した。

 日本卸電力取引所(JEPX)で実需給の前日に取引されるスポット市場で、需給ひっ迫から価格が高騰したにもかかわらず、当日は発電量が需要を上回るという不可思議な事態が頻繁に起きている(余剰インバランス問題)。市場で電力が不足していたのに、実際の場面では余っていたということだ。

 そして、過剰予備力問題では、一部の大手電力小売部門が、不測の事態に備えるための電源(予備力)を過剰に抱え込み、市場への売り札を本来のルールより減らしている可能性が指摘されてきた(「自由化1年目の電力市場、東電による2大事件」)。

 いずれも市場を歪めかねない問題で、このところの有識者会議でも2つの問題を追求する委員の声が強まっていた。監視委員会の精査表明は、そうした声を反映したものと言えるだろう。

 前回、「決算分析で見えた、東電・安値攻勢の秘密」で、東電EPが、前日スポット市場への売り投入を手控え、当日は余剰インバランスを出して一般送配電事業者である東電PGに買い取らせている可能性を指摘し、公正な競争に照らして問題を提起した。

インバランス収支報告書が示す事実

 今回は、この余剰インバランス問題が電力取引にもたらすインパクトについて、一般送配電事業者(大手電力の送配電部門)の収支の面から深掘りしたい。

 小売電気事業者の当日の供給電力量が、自社の顧客の総需要に対して不足していた場合(不足インバランス)、一般送配電事業者が不足分の電気を補給し、小売電気事業者がその不足分を「インバランス料金」で買い取る(支払う)。逆に供給量が需要を上回ったとき(余剰インバランス)は、余剰分を一般送配電事業者が引き取る。小売電気事業者から見れば売り渡すことになる。これをインバランス精算と呼ぶ。

 この一連のやりとりを通して、一般送配電事業者は小売電気事業者や発電事業者が出したインバランスを調整し、最終的にエリア内の需給を一致させ、電気の安定供給を確保している。

 この最終的な需給調整にかかるコストは、託送料金(ネットワーク利用料)としてすべての需要家が負担する仕組みになっている。全面自由化後も公共部門として規制事業に位置づけられている一般送配電事業者は、託送事業の収支公表が義務付けられており、その一環として「インバランス収支計算書」が公開されている。政府による託送料金の認可のベースとなる数字だ。