米電力はグループ内でも格付けに差

 しかし、今回の新々総特において、他社との共同事業体の自律的経営を優先し、「出資比率について柔軟性を持つこととする」と明記したことは、東電が今後はグループの一体性にこだわらないことを意味する。

 国内では、発送電分離を「アンバンドリング」と称することが多いが、東電は送配電事業に限らず全ての電気事業をアンバンドルすることも辞さない姿勢を示している。各事業がそれぞれ収益を極大化しようとする、本来の意味での電気事業のアンバンドリングである。

 このことは、信用力評価においても、グループ内の各社それぞれの事業リスク、財務リスクに応じて、異なる信用力の水準が示されることに繋がっていく。電気事業の自由化で先行する米国においては、同じグループ内の事業子会社が異なる格付けを持つ、あるいは子会社と親会社(持ち株会社)の間に格付け水準の差がある例は珍しくない。グループ内の各社が一体となって事業を行うわけではないためだ。また、他のグループに事業子会社を売却するケースも多い。

 実例をムーディーズの格付けから紹介しよう。例えば、ノースカロライナ州に本社を置く大手電力会社デュークエナジー(Duke Energy Corporation)は、グループ内の各社の格付けはA1(A+に相当)からBaa2(BBBに相当)まで、5つの水準に広く分布している。ミズーリ州のアメレン(Ameren Corporation)も、グループ内各社の格付けが同じくA1からBaa2まで分散している。

   日本においても、東電の新々総特をきっかけとして、あるいは2020年4月からの発送電分離を契機として、大手電力各社の事業子会社が再編・統合される動きが具体化すれば、垂直統合型の一貫体制を前提とする見方が変わる可能性がある。事業の特性によって各事業会社の信用力水準が分散しても、なんら不思議はない。また、同じ事業内容であっても、事業地域の需給動向や各社の財務体力の違いによって、信用力に差がつくこともあり得るだろう。

 事業リスクにのみに着目すれば、料金規制の残る送配電事業のリスクが最も小さく、次いで事業用資産の規模が小さい小売事業と続く。他方、最も事業リスクが大きいのが、電源投資の期間が長く、固定費回収リスクのある発電事業だろう。ただし、実際の信用力評価は、営業地域における事業の相対的な競争力や財務体力の大きさも考慮の上で決まることに留意が必要である。