事業ごとに信用力評価が変わる時代へ

 東電の経営上の次の課題は、共同事業体のパートナーとなる他社の理解を得ることであろう。新々総特においては、送配電事業と原子力発電事業に関しても、共同事業体の設立が計画されている。各種報道によれば、中部電以外の大手電力各社は、依然として東電との共同事業体の設立に関して慎重な姿勢を崩していないとされる。新々総特は、「今後10年以内に送配電・原子力発電の分野で共同事業体の設立を通じた再編・統合を始める」と記している。ここからの交渉の進捗が非常に重要だ。

 東電が基幹事業の売却も辞さない覚悟で事業の再編や統合を進めることは、信用力評価の観点でも大きな変化をもたらす。
 
 これまで日本の大手電力会社は垂直統合型で、燃料調達、発電、送電、配電、小売りといった電気事業のすべてを自社内で手掛けてきた。2013年から本格化した電力システム改革において、2020年4月からの送配電事業の分離(発送電分離)が予定されている。だが、送配電事業を別会社化する「法的分離」にとどまり、資本関係まで切断される「所有分離」までは求められていない。

 そのため、発送電分離を経てなお、大手電力の信用力評価は、すべての事業が一体として生み出す収益力と財務体力を評価する方法に変わりはない。各事業の事業リスク、財務リスクを別個に明示することはない。

 東電は他社に先駆けて2015年4月に持株会社制を採用し、燃料・発電、送配電、小売りを手がける3つの事業子会社を親会社から法的に分離した。しかし、各事業会社は、依然として親会社である東電ホールディングス(HD)が100%所有している。各社相互の事業上の繋がりはもちろん、資金面でも、東電HDの社債償還の一方で、送配電子会社の東電パワーグリッド(PG)が3月に社債を起債するなど、グループ内で繋がりがないと見るのは難しい。

 従って、既に分社化を行った東電に関しても、グループ全体で同一の信用力を持つと見られている。社債を発行した東電PGに対しても、格付け会社(R&Iと日本格付研究所の2社)が付与した東電PG債の格付けは、グループの一体性を考慮し、いずれも従来の東電HDの格付けと同一の水準であった。