同じ政府関与でもチッソやJALと東電は違う

 これまで政府が支援した企業は東電以外にも複数あるが、そのいずれも東電のケースとは事情が異なる。最大のポイントは、賠償・廃炉に要する費用の総額が大きく上振れするリスクが残っていることだろう。

 例えば、水俣病補償に苦慮するチッソに対しても、政府は柔軟な支援策を提供してきた。ただし、政府が関与して特別措置法が施行されたことで、和解が成立して補償総額が確定した。社会インフラ企業として東電と対比されることもある日本航空の場合は、そもそも賠償の問題がない。会社更生法が適用されたことで債務は明確に整理された。

 なにより、政府が支援する企業が、主力事業に関して他の民間企業との共同事業体の設立を求められるケースは、東電以外に例がない。

 新々総特においては、他社との共同事業体の成否が計画達成の鍵を握る。そのためには国がさらなるルール整備をすることが欠かせない。この点については、骨子にも「東電が毎年の賠償・廃炉費用を負担した後においても経済事業の信用力が市場からも信任され、かつ、その企業価値の向上に資する事業活動が阻害されないような仕組みを検討する」と記されている。

 現時点ではその仕組みの内容は不明だが、例えば社債におけるコベナンツ条項のように、抵触した場合に共同事業体の経営権を手放すほどの大きなペナルティーが科される条項を契約に盛り込むことで、東電側が民間会社としての共同事業に「本気である」ことを示す方法などが考えられる。

 一方、東電との共同事業体の設立を検討するエネルギー企業は、規制環境やエネルギーの需給動向、資本市場の動向、政治情勢に関して、短期的及び長期的なリスクとリターンを充分に考慮した上で、決断を下す必要がある。

廣瀬和貞(ひろせ・かずさだ)
アジアエネルギー研究所代表
東京大学法学部卒、日本興業銀行、ムーディーズを経て現職。デューク大学MBA、日本証券アナリスト協会検定会員、経済産業省調査会委員
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