普通の会社なら共同出資会社は信用力に影響なし

 通常なら、信用力の高いA社と低いB社が共同出資でC社を設立したからといって、A社の信用力がB社の影響を受けることはない。

 典型的な事例が日本の総合商社だ。総合商社は世界各地で大小の地元企業とジョイント・ベンチャー(JV)として販売会社を設立している。だが、そのことで総合商社の信用力が低下することはない。つまり、現地企業の信用力水準には影響されない。

 JVであるC社の経営が行き詰まった場合、一般にはA社は出資分の資金回収を諦めて、B社や第三者に安価で売却してJVを解消するだろう。C社を清算するという選択肢もある。

 ただし、こうしたやり方は、A社グループ全体にとって、C社が営む事業が重要でない場合に限られる。総合商社の例で言えば、各社とも多くの事業を手掛けており、現地JVの1社を失ったとしても、商社本体の経営への影響は限定的だ。

 しかし、A社グループにとって、C社の事業が必要不可欠なものである場合、話は変わってくる。C社が実質的にA社グループと一体である場合には、仮にC社が経営上の苦境に陥れば、A社グループは資金面も含めて追加支援をすることになるだろう。C社の苦境の原因がB社側にあったとしても、A社としてはC社を支援せざるを得ない。

 では、東電グループの場合はどうか。東電の新々総特の計画内容に即して考えてみよう。

本業で共同事業体設立を求めているが・・・

 新々総特の骨子は、東電が新たに他社との「共同事業体」の設立を目指す事業として、送配電事業と原子力事業を挙げている。共同事業体のパートナーとなる他の電力会社にとっては、いずれも、自社の電気事業にとって不可欠な事業である。

 共同事業体が設立されて日が浅く、両社が持ち寄った事業資産が一体化していない段階であれば、合弁を解消して再び別々の事業体に戻ることも可能だろう。だが、共同事業が進展し、維持更新や新設のための設備投資が行われ、共同事業体の事業資産が一体となった後の段階では、資産を切り分けるのは困難だ。

 もし、資産の切り分けが難しくなった後に、東電に予想外の信用力上のイベントが発生したらどうなるだろうか。例えば、福島第1原発の廃炉にかかる費用が、新々総特が前提とする金額を大幅に上回り、東電の存続が危ぶまれる事態に陥ったときは、どうなるのか。

 この場合、共同事業体の相手方である電力会社は、既に東電と一体となってしまっている合弁事業を解消して単独で継続することはできない。かといって事業を売却して手放すこともできない。

 さらに、東電の送配電事業もしくは原子力事業の規模の大きさを考えれば、パートナー企業が東電の持ち分を買い取ることは容易ではない。安く買おうにも、東電が果たすべき福島への責任を考えれば、「東電の苦境に乗じて安値で買い叩いた」との批判を招きかねず、これも難しい。従って共同事業体を継続せざるを得ない。

 つまり、経営危機にある東電を、共同事業体の収益で支えることになる。これは、東電全体の信用力を、その共同事業体が支えることを意味する。すなわち、パートナーとなる電力会社の信用力は、共同事業の継続を通じて、危機にある東電を潜在的に支えるリスクを考慮した水準となる。つまり、東電の信用力を反映することになってしまう。

 こうした見方に対しては反論もあるだろう。東電と中部電力の燃料・火力発電事業の共同事業体であるJERA(東京都中央区)のように、厳格な配当方針を堅持する仕組みにしておけば防止できるのではないかという見方もある。東電が資金面で苦境に陥った場合でも、「恣意的な配当の増額はしない」というルールがあれば、東電との信用力上の繋がりを遮断できるはずだという考え方である。