この経営評価は予定通り行われるとみられるが、その結果として原賠機構の東電の経営への関与が低減することは考えにくい。なぜなら、東電委員会が取りまとめた「東電改革提言(案)」は、東電存続の原点である「福島事業」に、国の長期関与を求めている。ここでいう福島事業とは、原発事故に対する賠償や廃炉などを指す。

 今回、賠償・除染・廃炉に要する費用が従来の想定の約2倍に拡大することを受け、国は東電の事業運営に対する新たな仕組み作りに乗り出した。ならば今後も、福島事業のコストがさらに大幅に増加するなど、想定外の事態が発生した場合でも、国は臨機応変に東電を支援するであろう。投資家がこう予想できる根拠が、東電委員会によって示されたわけだ。新総特の改訂版が示されない段階で発行した東電PG債を、投資家が購入しようと考える背景には、こうした事情がありそうだ。

東電グループは社債市場における責任が問われる

 一部報道によれば、東電グループには、すぐにでも第二、第三の起債計画を進める考えがあるという。しかし、東電グループは社債の残高が減少しているとは言え、日本の事業債市場の約6分の1を占める電力債の中において、2位以下を大きく引き離す最大の社債発行体である。これからも東電グループが長い年月にわたって、社債市場で多額の資金調達を続けることは確実だ。

 だからこそ、東電グループは投資家に対して丁寧な情報開示に基づく説明を果たして行くべきである。それが社債市場における大手発行体の責任であろう。今回の東電PG債が新総特の改訂前に計画されたことはあくまで例外と位置付けて、今後の起債は新しい事業計画策定後のタイミングで、投資家の納得の上で行うことが望ましい。

廣瀬和貞(ひろせ・かずさだ)
アジアエネルギー研究所代表
東京大学法学部卒、日本興業銀行、ムーディーズを経て現職。デューク大学MBA、日本証券アナリスト協会検定会員、経済産業省調査会委員
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