東電グループと投資家、社債をめぐり思惑が交錯

 社債を発行する東電グループにとって、社債発行は現行の新総特の目標だ。現行の新総特には、「2016年度中の公募社債市場への復帰を目指す」と明記されている。改訂作業の終了が近いとは言え、新しい新総特が発表されていない現状においては、東電が従うべきは現行の新総特である。

 こう考えれば、2016年度中の公募社債発行を目指すのは当然と言えなくもない。だが、投資家に対する責任を考慮すれば、この考え方に立つのは説得力に欠ける。

 東電の立場からのもう1つの見方は、資金繰りの必要性から社債発行を急いだというものだ。福島事故以降、社債が償還を迎えるたび、国内の金融機関が肩代わる形で融資に応じて来た。福島事故直後の2011年3月末時点で約5兆円あった東電債の残高は、相次ぐ償還により2016年9月末に約2兆円にまで減少している。これまでは各銀行とも、自行の貸出ポートフォリオにおける東電向け融資の拡大を受け入れてきた。だが、そろそろ限界に近づきつつあると言われている。

 さらに、来期(2018年3月期)には、6500億円の社債が償還を迎える。そのうち4000億円は上期(2017年9月まで)に償還期限がやってくる。銀行に貸し出し余力がなくなりつつある中、上期分の償還は目前に迫っている。東電グループには、資金調達を少しでもスムーズに進めるためにも、投資家との対話を早めに再開して社債発行の可能性を見極めておくことが重要だと考えたのではないか。この見方が恐らく実態に近いだろう。

 他方、社債投資家にも事情がある。それは深刻な運用難だ。安定した運用対象である国債が、日本銀行による異次元金融緩和の継続によって市場で枯渇し、代替となる投資対象が求められている。電力債は、福島事故後は国債と比較した場合のリスクが高まってはいるものの、他の事業債に比べれば、多くの投資家には未だ安定した運用対象に見えている。

 つまり、現在の運用難の状況によって、東電PGによる今回の社債は実力以上の評価をされている面がある。これが東電債の人気の大きな要因であろう。

 そして、もう1つのポイントは、東電の経営に対する国の関与の深まりが、社債投資家に安心感を与えている可能性である。現行の新総特には、東電に対し2016年度末に「責任と競争に関する経営評価」を行い、その結果によっては東電を「一時的公的管理」から「自律的運営体制」に移行させるとある。具体的には、原賠機構の保有する議決権の2 分の1 未満への低減、原賠機構役職員派遣の終了、議決権比率に見合った取締役会の構成への移行などである。