「役所的でビジネスマインドが感じられない」。大手電力に対して、こうした批判の声を聞くことは少なくない。確かに利益を稼ぐことに淡白な面はあるが、単純には大手電力を責められない。一般に、企業の財務のあり方が事業方針を決めると言われる。しかし大手電力の歴史を振り返ると、通常とは逆に、電気事業の仕組みが財務のあり方を決めてきた経緯がある。

 企業の資金調達方法には、大きく負債(デット)によるものと、株式(エクイティー)によるものがある。前稿「大手電力の資金調達に潜む時限爆弾」において、金利負担が少なくて安定的なデット(社債発行や銀行借り入れ)による資金調達を続けて来た大手電力は、2025年に一般担保付社債発行の終了を迎えるため、早期に新たな資金調達方法を確立することが必要だと指摘した。

 デットによる資金調達は、遠からず従来通りにはいかなくなる。とはいえ、今の大手電力にエクイティーによる資金調達ができるのだろうか。

株式投資家にとっての電力株は「利回り株」になった

 電力自由化を迎える前の電気事業は、料金規制と地域独占に守られ、極めてリスクの小さい事業であった。そのため、得られるリターンも当然ながら小さかった。典型的な「ローリスク・ローリターン」の事業である。

 損失を出さないように電気料金を設定することが認められている代わりに、当初想定を超える利益が出そうになった場合には料金値下げを求められる。いわゆる利益の「アップサイド」を取ることができなかった。

 これは、エクイティー投資に適した投資対象とは、まさに正反対の事業特性である。本来、エクイティーは、投資対象に損失が生じた際にはデットより先に負担する代わりに、業績が上振れた場合には大きな利益還元を得る。まさに、「ハイリスク・ハイリターン」を求める投資だからだ。

 投資対象としての大手電力の位置付けが固まったのは、1980年代後半のことだ。86年頃から、大手電力にとって「トリプルメリット」と呼ばれる恵まれた事業環境が到来した。

 トリプルメリットとは、プラザ合意に伴う急激な円高、石油ショックの揺り戻しによる原油安、それと景気刺激のための低金利の三つである。円高と原油安は燃料調達コストを引き下げ、低金利は資金調達コストを下げるため、大手電力の利益は大幅に拡大すると予想された。

 エクイティー投資家は株主還元の増大を期待したが、実際には配当の増額も利益の蓄積もなされず、代わりに電気料金が値下げされた。88年に中部電力が約22%もの値下げをするなど、86~89年までの4年間は、大手電力全社が毎年、大幅な料金値下げを実施した(沖縄電力だけは88年と89年の2回のみ)。

 この事例によって、株式投資家は電力株を典型的な「利回り株」と見なすようになった。料金規制によって事業費用として認められた現金配当だけは毎年着実に支払われたためである。投資元本に対して毎年定額の利子が支払われる「債券」と同様のものであるという見方である。

 別の言い方をすれば、エクイティー投資の対象としては、電力株は魅力のない銘柄だと整理された。これは大手電力各社の経営が拙かったからではない。総括原価方式による料金規制を基本とする電気事業法に則って事業運営した当然の結果だ。