2つ目の特徴は、2016年3月末のオープン当初から業界動向を伝える最新ニュースのほかに、ENECT編集部が企画から執筆まで完全に内製したオリジナルコンテンツの拡充を図っている点だ。

 とりわけ、ミュージシャンや芸術家、建築家などエネルギーとは“畑違い”の著名人に、それぞれの活動を通して感じている電力に対する考え方や未来への思いを聞くインタビュー企画は、プロのライターを起用したENECTならではの内容になっている。いずれのインタビューも大勢の記者や外部ライターを抱える商業誌に先駆けて取材を敢行した、ENECTでしか見られないコンテンツばかり。

 最たる例が、「世界でいちばん貧しい大統領」の愛称で知られるウルグアイのホセ・ムヒカ前大統領の独占インタビューだ。2015年秋、ENECTのオープン前に平井氏は南米各地を旅行するのと並行してムヒカ氏へ取材依頼をしていた。帰国直前になってようやく快諾を得て行った1時間のインタビューの内容を、2016年4月5日のムヒカ氏来日直前から3回連載でENECTに公開した。

 こうした独占インタビューを核とするオリジナルコンテンツはすでに、ENECTの根強いファンを作り出している。

電気事業の硬いイメージを払拭する取り組みも
電気事業の硬いイメージを払拭する取り組みも
みんな電力が手がける「ジョシエネLABO」
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 ENECTの閲覧数は現在、1日あたりコンスタントに2000件程度。絶対数こそ少ないが、この読者の中からみんな電力は低圧電力のサービス契約を1500件あまり獲得している。2人で運営している点も踏まえれば、集客ツールとしてのENECTの効果は悪くないだろう。

 そしてENECTの第3の特徴は、中立な立場でコンテンツを配信していることである。冒頭で触れたとおり、みんな電力は自社のサービスに限定せず、ライバル新電力の動向までも最新ニュースとしてENECTで紹介する。

 契約に結びつけようとするあまり、オウンドメディアは往々にして自社の製品やサービスの宣伝色が濃くなりがちだが、ENECTにはそれがない。みんな電力は「決まった解がない、全面自由化がもたらす未来のライフスタイルを提示する」(大石社長)ため、ENECTで多様な情報を発信している。

 電力の調達先となる発電所を顧客が間接的に選べる「顔の見える電力」や、電気料金のコスト構造を明示した「日本一高い透明性」を謳うサービスを展開するなど、単純な料金競争とは一線を画した戦略をとっているからこそ、競合の紹介になるようなコンテンツも思い切って配信できると言える。

コンテンツ使用料や広告費の“副収入”にも期待

 外部に丸投げせず、自社主導でオウンドメディアの運営を続ける利点は決して小さくない。特にオリジナルコンテンツの充実によって、自社の認知度を飛躍的に高められる公算は大きい。

 実際、筆者の調べでは、メディアの広告枠販売やコンテンツ配信サービスなどを手掛ける企業がENECTのオリジナルコンテンツの価値に注目し、コンテンツの外部配信や広告掲載を提案すべく、みんな電力に接触しようとする動きが出てきた。

 オリジナルコンテンツが国内の複数の情報サイトに配信されるようになれば、ENECTとみんな電力の認知が広がり、新たな契約の獲得に結び付く可能性が出てくる。記事配信に伴うコンテンツの使用料や広告掲載費の“副収入”も期待できる。

 大手新電力のように継続的に広告宣伝費を投じるのが難しく、商業誌などで取り上げられる機会にも恵まれにくい中堅中小規模の新電力にとって、オウンドメディアの運営は一考の価値がある。

 最近では、オウンドメディアの基盤を用意すること自体は難しくなくなってきた。みんな電力の場合、ソースコードが開示され無償で利用できるCMS(コンテンツ管理システム)を用い、ブログで記事を書く要領で次々とコンテンツを公開している。

 今後も既存の大手電力や大手新電力と同じように、料金の安さを売りモノにして値下げや割引きを軸とする消耗戦を繰り広げるか。料金が大手より多少高くても再エネの発電所を応援したいという環境意識の高い顧客や、電気料金のコスト構造を明示する透明性の高さに共感する顧客の獲得を狙うか。

 300社以上も存在する月間電力需要実績が200万kWhに満たない大半の小規模な新電力は自社の電力サービスを知ってもらうために、大手とは違う中堅中小の事情に見合った顧客獲得戦略を真剣に考えるタイミングに来ている。

  
栗原 雅(くりはら・もと)
1998年、日経BP社に入社。日経コンピュータや日本経済新聞の記者として国内外企業のIT活用事例やITベンダーの経営戦略、最新技術動向を取材。2006年に独立後、IT専門誌の立ち上げや企業のオウンドメディアのプロデュースを手掛ける。趣味はレスリング(ただし、観戦)。稲門レスリング倶楽部常任委員