電力広域的運営推進機関(広域機関)の基幹業務システム「広域機関システム」の開発プロジェクトは、派手に炎上した。

 プロジェクトは当初から、システム開発の経験者なら警戒するであろう危険のシグナルが、いくつも点灯していた。それにも関わらず、広域機関と、システム開発を担当した日立製作所はトラブルに向けて突進してしまった( 「破綻へまっしぐら、必然だった広域機関トラブル」を参照)。

 最大の原因は、システム開発プロジェクトを遂行するうえで不可欠なマネジメントの崩壊である。今回はプロジェクト体制編として、「プロジェクト責任者」と「システム利用者」の2つの視点から、プロジェクトの主体である広域機関側に欠けていたマネジメントの実情をみていく。

統括責任者が不在、広域機関内の意思疎通を阻む

 統括責任者の不在が、システム開発プロジェクトの大幅遅延と品質低下の主要な要因と考える――。システム監査の専門家などで構成する、広域機関システムの開発プロジェクトを検証してきた第三者評価委員会は2017年6月にまとめた報告書の中で、こう断じた。

 統括責任者の不在がプロジェクトに及ぼした影響についてみる前に、広域機関システムの開発プロジェクトの体制を簡単に確認しておく。第三者評価委員会が主因として指摘した統括責任者の不在は、プロジェクトの体制そのものが不完全だったことを意味しているからだ。

 広域機関システムの開発には、大手電力会社のシステム部門の出向者などで編成する広域機関のメンバーと、日立および同社の開発委託先のシステム技術者が参画した。

 プロジェクトは2つのサブプロジェクトで構成。1つは、広域機関の業務内容を詰める「ルール制定プロジェクト」で、広域機関の企画部が担当した。もう1つは、業務内容に基づいてシステム仕様や、システムに実装する機能を定め開発する「システム開発プロジェクト」である。広域機関の運用部が日立と連携する形で実際の開発作業に臨んだ。

 双方のサブプロジェクトの責任者には企画部と運用部の部長が就いた。また、両部のマネージャーが各サブプロジェクトのリーダーとして、業務ルールづくりやシステム開発の実務を取り仕切った。

 サブプロジェクト単体で見れば、ごく当たり前の体制で、特筆すべき点は見当たらない。問題は、2つのサブプロジェクトが独立していたことである。ルール制定とシステム開発それぞれのサブプロジェクトが抱える課題やリスクを把握し、対処方法について統括して采配を振る責任者がいなかった。

 統括責任者がいないことは、広域機関システムの開発プロジェクトにおける最大の泣き所になった。とりわけ、広域機関内の意思疎通を阻んだ影響は大きい。