一般に、発注者が提示したRFP(提案依頼書)の記載内容があいまいな場合、ITベンダーの提案内容もいい加減になりがちだ。それでも、開発にかかる工数や陣容をできるだけ正確に見積もり、予算超過や工期遅延のリスクを最小限に食い止めるべく、ITベンダーはRFPに基づいて可能な限り具体的に開発するシステムのイメージを描く。その点、日立が提出した提案書には広域機関が発行したRFPのコピーが多く含まれている印象があり、詳細についての記載がない部分もあった。

 だが広域機関は、「ミドルウエアの流用率を高めることで工数を数割程度削減する」、「2段階開発で短工期対応する」といった趣旨の日立の説明に納得。「開発流用率が当初予定まで達しない(開発の際に想定通りにミドルウエアを用いることができない)場合は、開発会社の責任においてその都度リソースを投入し、工程の厳守・品質の確保に努める」との回答も得られたことから、開発規模や流用率の見誤りリスクがあることを認識したうえで日立案の採用を決めた。

 そもそも広域機関の担当者は、大手電力で電力の需要監視や供給力制御を担う中央給電指令所のシステム開発実績がある日立のブランドを信じていた。このことが、日立の提案内容に含まれる流用率などの見誤りリスクの過小評価につながった可能性は否定できない。

受注の赤信号:業務フローが決まらない、特大リスクを読み誤った日立

 一方の日立は、広域機関システムの開発プロジェクトが明らかに抱えていた特大のリスクを完全に読み誤った。

 2014年4月の説明会で広域機関は、短工期である点や発注時点で制度が固まっていない点、制度設計と並行してシステム仕様を固める必要がある点、仕様の追加・変更が発生する可能性がある点をITベンダーに伝えている。日立は当然、短期決戦の難プロジェクトになるのは必至だと認識し、開発規模の膨張も折り込んでいたはずだ。

 しかし、開発するプログラムの量にして総量50万ステップ相当と見込んでいたシステムの規模は、桁違いの400万ステップほどに膨れ上がった。連系線等利用計画管理を含む広域機関システムの各種計画系機能において、上述した流用率の見誤りリスクが顕在化し、日立が用意したミドルウエアがほとんど使い物にならなかったのが主因の1つだ。計画系機能で新規開発するプログラムの量が増え、結果的に広域機関システム全体の開発に要する工数を大幅に読み違えた。

 2014年12月末の段階でシステム仕様の変更をいったん凍結する、との日立の求めがかなわなかった影響も無視できない。