そこで今回からシステム開発編とプロジェクト体制編の2回に分けて、第三者評価委員会で浮かび上がった当該プロジェクトの実態をみていく。第1回はシステム開発編として、プロジェクト進行中に灯った「発注の赤信号」と「受注の赤信号」、「設計・開発の赤信号」という3つの視点でプロジェクトを検証する。

 なお、広域機関は広域機関システムのトラブルや開発遅延を受け、システム監査の専門家などで構成する第三者評価委員会を2016年10月に設置。広域機関と日立に残っている関連資料を網羅的に集めるのと併せて、双方の関係者合計35人へ各2時間の個別インタビューを実施し、広域機関システムの開発に影響を及ぼすことになった事実を洗い出した。

発注の赤信号:日立提案のリスクを認識しつつ採用

 まずは、広域機関システムの開発会社が日立に決まるまでの事実を整理しておこう。

 広域機関の前身である広域的運営推進機関設立準備組合が、広域機関システムの開発会社を選定するために公募を開始したのは2014年4月1日。同月25日に全195ページにおよぶRFP(提案依頼書)を発行すると共に、それまでに提案意思を示していたITベンダー6社を対象に説明会を開催し、期限である6月27日までに2社から提案を受けた。

 日立の提案内容は工数と金額の両面で、他社の見積もりを大きく下回っていた。特に、「連系線等利用計画管理」関連の開発規模は、他社が提出した提案の約9分の1と極端に少なかった。

 この連系線等利用計画管理こそ、全面自由化までに開発を完遂できず、2016年4月のスタート時から業界の混乱を招いた機能だ。大手電力会社のエリアをまたぐ電力の受け渡しを管理するもので、例えば、東北電力エリアの発電所で発電した電気を東京電力エリアで販売する時などに使う。全国規模で電力小売りの競争を活性化させるには不可欠な機能だ。しかし、広域機関は予定していた6種類の計画管理機能のうち4種類の稼働を、自由化直前の2016年3月末になって見送った。

 広域機関は他社の提案とかけ離れた日立の提案内容の実現可能性を確認するため、同社に見積もりの根拠を求めた。しかし、低価格を覆すだけの疑義を抱く悪材料を見出せず、2014年8月末に日立の落札が決まった。

 黄色に点灯した信号を目視しながら交差点を通過したイメージだが、実際はこの過程で赤信号がはっきりと灯っていた。それを広域機関は黄色と判断した。