制度:基本設計終了後に制度変更、ゼロから再検討へ

 関電が描いていたプロジェクトのスケジュールは、こうだ。

 2014年4月から7月末までに託送業務の要件を満たすシステムの基本設計を終え、8月から実装する機能の詳細な設計やプログラムの開発をスタートさせる。2015年4月までの9カ月間でひと通り開発を終わらせた後、5月から約1年がかりでシステムの単体テストや総合テストをする。

 関電はスケジュールに従って基本設計を進めたものの、仮説と想定に基づく設計は案の定、早々に見直さざるを得なくなった。その典型例が、30分値の扱いである。

 一般送配電事業者が小売電気事業者に30分値を提供するタイミングについて、「計量から60分以内」という方針を経済産業省「電力システム改革小委員会」が示したのは、2014年7月30日。このとき関電は「基本設計をほぼ終えていた」(電力流通事業本部送電サービスセンター託送管理グループの丸山喜広副長)。

 関電はもともと、当日分の30分値を翌日に一括して小売電気事業者に提供する想定で、託送業務システムを設計していた。スマートメーターから取り込んだ指示数を基に、48個の30分値を1日に1回、夜間バッチ処理でまとめて計算。夜のうちに小売電気事業者ごとに仕分けした30分値のファイルを情報提供用サーバーにアップロードしておき、Web経由かファイル転送で各小売電気事業者に利用してもらう仕様だった。

 しかし、計量から60分以内の提供となったことで「基本設計の一部を捨ててゼロから再検討することになった」と、関電IT戦略室の木村担当課長は話す。処理内容が想定とまったく違うものになり、システムの構成そのものを見直さなければならなかったからだ。具体的には、スマートメーターから指示数を取り込むのとほぼ同時に30分値を計算し、小売電気事業者ごとの仕分けと提供を短時間で完了させる仕組みが必要になった。

 高圧分野では計量から30分以内に30分値を提供する仕組みが動いている。そのため低圧の30分値の60分以内提供は問題なく実現できそうにも思える。だが、ITシステムの細かい処理内容まで考えると、必ずしも一筋縄ではいかないことが分かる。

 同じスマートメーターでも高圧向けと低圧向けでは機能が異なるためだ。前者は、メーター側で30分値のデータを保有している。したがって高圧分野では、スマートメーターから託送業務システムに取り込んだデータを、そのまま30分値として小売電気事業者に提供できる。

 他方、低圧向けのスマートメーターは、指示数しか記録していない。小売電気事業者に30分値を提供する前工程として、託送業務システム側で指示数の減算処理を行い、30分値を算出する必要がある。1件ごとの処理は単純な減算だが、高圧では各所に分散した個々のスマートメーターがそれぞれ担う作業を、低圧ではすべて託送業務システムが処理する。スマートメーターの設置台数が増えるにつれて、託送業務システム側の処理負荷は高まる。

 計量から60分以内に、繰り返し多量の30分値を計算するため、関電は本来なら詳細設計や開発に着手する計画だった8月に入って急きょ、要件を満たすシステム構成を再検討。データの読み込み書き出しを高速化するインメモリーデータベースの導入を決めた。製品選定作業を進め、プロジェクトの遅れを最小限にとどめるべく数週間のうちに、社内の他システムで利用実績があった製品の採用を決めて開発に着手した。